第28話 見知らぬ咎
やべえ。動けねえ。
足元に喰らった魔法で吹っ飛ばされて足首を派手に捻った。逃げなきゃいけねえのに、痺れて感覚がない。折れたかどうかを確かめる前に、“ガンスリンガーの神”の
損傷したときより遥かに痛い、神の強制治療。たしかに傷や骨折は治るが、癒される要素はひとつもない。乱暴に捻りあげられて固定され、つなぎ合わされるだけだ。その間は、逃げるどころか身動きひとつもできない。悲鳴を上げて転げ回るのを我慢するだけで限界だ。
脂汗を流して硬直する俺に、死に戻りの指揮官が偉そうに
「どうした、腑抜けの犬が! コソコソ逃げず掛かってこい!」
オイふざけんな。ガキ一匹相手に徒党を組んで待ち伏せして、殺しに掛かってきたのはどこのどいつだ。
言いたくても声にならない。敵の攻撃が降り注ぐ気配。そこでようやく治癒が終わり、俺は必死に転がりながら立ち上がるとダンジョンの奥を目掛けて走り出した。
チラリと配置を見た限り、俺が一階層に逃げることは想定していたようだ。三階層に向かうとは思っていなかったらしく、待ち受けていた黒装束どもの動きが乱れた。
こいつら、まだ十人近く残ってやがった。黒装束たちの包囲を抜けて、姿勢を低くしたまま全力で駆け抜ける。銃を手放して身軽になった人狼に、追い付ける人間などいない。
荒野の先に見える断崖の洞窟。そこが三階層へのゲートだとバレットの知識が教えてくれる。これも
背後から追ってくる黒装束の気配はあるが、
洞窟の奥で光に包まれた俺は、気づけば鍾乳洞のような場所に出ていた。
バレットが事前に聞いていた通りだが、思っていたものとは少し違っていた。日も差さない鍾乳洞のなかは薄暗いが、乳白色の鍾乳石がほのかに発光しているためある程度の視界は確保できていた。
「オオオオオゥ、オゥオゥオゥオォゥ……」
「ケケケケケケケェ……」
奥から奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
二階層では魔物を見なかったが、ここでは大小いくつもの気配している。近づいてくるものも、遠ざかるものも、通り過ぎるものもいるが、立ち並ぶ
黒装束の連中が追ってきたら厄介だと思う反面、ここでなら反撃しやすいともいえる。小柄な者が逃げ隠れできる環境なら、多対一のデメリットが潰せる。
「……“
微かな声を聞いて、とっさに
天井から垂れ下がる鍾乳石の間を抜けて、俺は静かに回り込む。崩れた鍾乳石は折り重なるなかに、エルデバインの後ろ姿が見えた。
「動くと殺す」
俺が銃を突きつけて言うが、反応はない。
「……どのみち、……しぬ」
エルデバインは振り返らないんじゃない。振り返れないんだ。
うずくまる男の腹は血塗れで呼吸も浅く、見るからに虫の息だ。仲間割れでもしたのかと思ったが、どうも銃傷のように見える。
嫌な予感がした。まさか我が神の降臨でもあったか。
“神敵を滅せよ”
「ふざけんな!」
姿も見せずに命じ続ける神に苛立って、思わず怒鳴りつける。魔物か獣か両生類か、あちこちで鳴いていた生き物がピタリと声を止めた。
「アンタがなにを憎んでなにを滅そうとしてるか知らねえがな! それと俺と、なんの関係があんだよ!」
応える声はなく、代わりにボトリと手のなかに銃が落ちてくる。それはまだ温かく、硝煙の臭いがした。
直後に“
ああ、クソが。あのクソ邪神、とうとう俺の選択権まで奪いやがったか。勝手にレベルを上げて、おまけにてめえで先に使うとはな。
名前:バレット
天恵職:
所有ポイント:1652P(LV5の必要ポイント:256P)
所有弾薬:46(弾薬購入ポイント:1P/一発)
所有弾薬:6(弾薬購入ポイント:10P/一発)
所有弾薬:42(弾薬購入ポイント:5P/一発)
所有弾薬:8(弾薬購入ポイント:2P/一発)
いや、それよりも、なにかおかしい。
なにか忘れている気が……いや、なにかを忘れ
「……笑わ、せるな。……俺を、殺したのは」
「あ?」
頭のなかに、おかしな記憶が入り込んでくる。逃げる誰かを追い詰める光景。暗闇のなか逃げ続けていた男は、行き止まりにぶち当たって振り返る。武器を振りかぶろうとした男は腹に銃弾を受け、目を見開いて俺を見た。
「……おまえ、だろう、……が」
エルデバインは、目の前で崩れ落ちて動かなくなった。
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