第27話 死にぞこないと死に戻り
「……ぐぞ、が……」
モリスは混濁する意識をつなぎ止め、目の前の獣人を見据える。視界が狭く歪んでいるのは、片目が潰されたからだろう。嗅覚も聴覚も、漏れ出た声もおかしい。
四肢は動くが、まだ痺れている。死んでいた身体に血が巡り始めたからだ。まだ回復しきっていないせいで、頭の中身を掻き回された感覚が残っている。
死んだときの記憶はないが、損傷具合を確かめるだけで顔に“鉛の
そして、“
教会でも極秘の邪法を使って、死者を現世に
まだ戦える。自分が死の淵から戻ったということは、副官レイミアが健在だという証拠だ。そう考えたモリスは自分の、そして部下の浅はかさを思い知る。
十数メトルほどのところで、崩れた頭のレイミアが起き上がろうとしていた。その首ではモリスと同じ“
「……度じ、難い」
ようやく意識を取り戻したらしいレイミアは、モリスを見て気まずそうに眼を逸らした。
「……どうかしてるぜ」
人狼の子供が、老成した目をして言う。
考える間もなく、身体が動いた。死んでも手にしたままだった
自分が蘇生したのだから、相手の
こいつはエルデバインの言っていた通り、世界を壊す、“
「くッ」
押し込まれることに焦りを感じたのか、手の内が光って人狼が小さな“
だが、打撃の間合いに入ってしまえば怖れるものではない。
距離を潰されると、投射武器は打撃武器に勝てない。礫を投射する筒状の先端が、自分に向く前に弾く。それだけで軌道は逸れ、攻撃は無効化する。中間距離まで退いてに逃れてくれれば、こちらも魔法で対抗できる。組み打ちだけは警戒するものの、体格差は歴然だ。
腰の短刀を抜けば戦況も変わっただろうに、まだ若い人狼は己の武器に考えを縛られている。
「ぐあッ!」
何度目かの振り払いで、人狼が呻き声を上げた。モリスが殺される前に見た、重そうな“
「なにッ⁉」
姿とともに、気配が消える。隠蔽系の
わずかに回り込んでくる微かな気配。こちらの利き腕側、振り抜きに不利な右を狙ってきたあたりに戦い慣れたものを感じる。その手には銀に輝く、第三の“
ドゴンッ!
頭を振って逃れたモリスの傍らを、轟音とともに光の矢が飛び去る。
恐ろしいほどの圧と火炎。“天の狩人”からの鑑定報告には
礫を打ち出した“
「滅せよ! “
隙をついて灼熱の業火で焼き払う。仕留めたときの手応えはなく、斜め後方に飛びのくのが見えた。さすが人狼というべきか。反応の速さと身体能力は人間の比ではない。
弓手が視界外から射掛けてきた矢を、人狼の子は呆気なく
ピピ、ピ、ピッ、ピー!
指笛で合図を鳴らすと、後方の魔導師が指定位置に雷撃魔法を叩き込んでくる。
雷撃魔法は他の攻撃魔法よりも射出と着弾が早い。当たれば麻痺の効果も加わる。
ピピピピッ、ピピ、ピッ!
岩陰から飛び出した人狼が向かう方向に、雷撃魔法で連続の追撃。逃げ道が一方向にしかない状況を作って、その方向に“
直撃は避けられてしまったが、足元の土を跳ね上げて視界とバランスを奪うことには成功した。わずかに被弾したのか、転がった人狼はすぐに立ち上がれず這ったまま逃げ込む先を探している。
いまが決めどきだ。モリスは意図的に立ち上がり、
「どうした、腑抜けの犬が! コソコソ逃げず掛かってこい!」
嫌そうな顔で、人狼はモリスを睨みつけてくる。
残り少ない前衛の二人組が、人狼の視界外から奇襲を行う。盾と手槍で身を固め、魔力による身体強化を掛けた二方向からの挟撃。両者の攻撃を逃れられる方向には、姿を消したレイミアが待ち受けている。
これで終わりだ。モリスは人狼を見据えたまま、ニヤリと笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます