第9話 狩人の罠
「買取をお願いします」
疲れた身体を引きずって冒険者ギルドに戻った俺は、カウンターの受付嬢にゴブリンの討伐証明部位である左耳と魔珠を差し出す。
他のゴブリンは神の
「ゴブリン、ですか。もしかして“沈黙の森”に入りました?」
「はい。浅いところだけですが」
「子供が、
「いえ、正規の冒険者ですよ」
やけに絡んでくるが、トラブルは勘弁してくれ。今日は、もう気力も体力もない。
受付嬢はキツそうな印象の若い女で、名前も知らない。俺は朝の空いてる時間にしか来ていなかったから、カエラ嬢以外とはあまり面識がない。
受領確認に必要だろうと出しておいたギルド証を見て、受付嬢が表情をゆがめた。
「……登録したばかりで
「はい。
俺は心のなかのチンピラを押さえつけ、殊勝な態度で対応する。執拗な詮索とあからさまな侮蔑に、そろそろ我慢も限界だ。
さっさと手続きを終わらせなければ、銃を抜いてしまいそうだ。
「……まあ、いいですけど」
鼻で
ギルドの簡易宿泊所が一泊で大銅貨一枚、三食の飯が切り詰めて大銅貨三枚。今後は傷薬や回復薬などの消耗品も買わなければいけない。武器や防具もだ。装備の手入れや修理の費用も必要になるので、冒険者がカネを貯めるのも簡単ではない。
仕事の後に気が緩んで酒や飯や女に散財して、次の依頼を失敗する連中は何人も見てきた。
「どうも」
疲れた身体を引きずり簡易宿泊所に向かおうとする俺に、受付嬢が後ろから声を掛けてくる。
「話は終わっていません。いまから戦闘の実力試験を受けてください」
「あ?」
もう気づかいをする余裕もなく、俺は思わずチンピラめいた態度で睨みつけてしまう。
振り返った俺は、すぐに状況を理解した。受付嬢の前に、見覚えのある男が立っていたからだ。
「犬コロが一匹でゴブリンを狩ったなんて、誰が信じるかよ」
「そうだそうだ!」
ニヤニヤと薄笑いを浮かべているのは、長剣を抱えた冒険者。今朝がたガキどもと一緒に絡んできた、獣人差別主義者の男だ。
その横でヘタクソな相槌を打つのは、薄汚い斧持ちの巨漢。これはもう、胡散臭いなんてもんじゃねえ。
「しかも登録初日にEランク? 不正を働いたとしか思えねえ」
「そうだそうだ!」
なんだ、そのブサイクな小芝居は。呆れて受付嬢に目をやると、こちらも嫌な目で俺を見る。
「冒険者ギルドでは、あなたに能力詐称の疑いがあると判断しました」
「おい待て。ランクを判断したのもギルド証を出したのも、ここのギルドだぞ? 疑うならカエラさんに確認を……」
「この件に彼女は関係ありません。それに、もう退勤しています」
なるほど。ここにいる他の受付嬢も、冒険者たちも。
いつかこうなることは予想していたんだが、まさか初日から……それも疲労のピークで的中するとはな。
「で?」
もう無害な小僧を装う意味もない。俺は素のままで馬鹿どもと対峙する。
その“実力試験”とやらでなにをやらせるつもりか知らんが、痛い目に遭いたいなら望み通りにしてやるだけだ。
名前:バレット
天恵職:
所有ポイント:13P(LV2の必要ポイント:32P)
所有弾薬:10(弾薬購入ポイント:1P/一発)
銃弾を10発購入。せっかく溜まったポイントが、また10も減っちまった。
さすがに殺しちゃマズいんだろうが、あいにく
「
「お、おう」
まさか向こうから言い出してくれるとは思わなかった。受付嬢が差し出した羊皮紙の内容を確認して指を当てる。内容は、ほぼ俺が望む通りのものだった。おまけに、この契約の保証先は教会というから笑えてくる。
魔術によって俺と男たちふたりの署名が
「では、闘技場へ」
面白そうな顔で見ていた周囲の冒険者たちが、歓声を上げてあちこちに駆けだす。
「おい! 面白れえ見世物が始まるぞ!」
「ソリスたちを呼んでこい!」
「賭け屋のジジイもだ!」
野次馬を呼びに行ったのはわからんでもないが、こんなことで賭け屋まで出るか。
「なあ、俺が自分に賭けんのはアリなのか?」
俺が笑いながら訊くと、受付嬢は血管がブチキレそうな顔で睨みつけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます