第3話 フェイタル・メタル
夜も更けて、みなが寝静まった頃。こっそり孤児院を抜け出した俺は、北に
領内の住人たちから“沈黙の森”と呼ばれるここは、王国の北部一帯に広がる森林地帯の一角だ。そこに暮らす生き物は多く植生も豊かだが、近隣住人はあまり足を踏み入れない。熟練の狩人や依頼を受けた冒険者が外延部で狩猟採取を行う程度だ。
危険な獣や魔物が多いことが理由のひとつ。もうひとつは、“
森を
実際、森に入ったまま帰ってこない狩人や冒険者は後を絶たない。予算のない子爵領ということもあって、公式の調査は行われていないため獣や魔物の数や生態はもちろん、行方不明者の消息も不明のままだ。
誰も明言はしないが、“沈黙”というのは、“近づくと死ぬ”という
「そんな危なっかしい森から、いくらなんでも近すぎねえか、あの孤児院……?」
どうしてもっと領府に近いところに建てなかったのか。
“沈黙の森”から南に
あれじゃまるで領府との間に建てた砦だ。……いや、捧げられた生贄か。領府の住人や為政者たちの悪意は、俺が考えている以上に強いのかもしれん。
バレットは違和感を持っていなかったようだが、元Bランク冒険者が
「……まあ、いい。いまは自分のことが優先だ」
“
その“獣”が、単なる動物を指すならよし。いくらでも捧げてやろう。ただし、街の住人たちが蔑み罵るように獣人を指すのであれば、神との付き合いはここで終わりだ。
前世は
元々が
「さて、と」
森に足を踏み入れてすぐ、感じたのは異常なほどの静けさだった。“
バレットにとってはいつものことらしく、緊張した様子はない。ここは獣人の勘と感覚器を信じることにした。
しばらくすると、近づいてくる気配を感じた。カサカサと軽い足音から、バレットはそれを“
獣人は人間よりも五感が鋭く、身体能力も高い。逃げ場のない閉じた
「
予想通り、現れたのは“
肉は臭くて硬く、売っても
木の上から矢を射ると、首に刺さってウサギたちは次々に倒れる。何度か蹴るような動きを見せた後で、事切れた三匹のウサギたちは青白い光に包まれる。
「……ん?」
異世界ではこういうことも起きるのかと思ったが、バレットの驚きが伝わってくるので異常事態らしい。目の前に“
ウサギが光のなかに消えたのは、神の意思に従った結果なのだとわかった。どうやらその神が、ずいぶんとヒネくれた相手だということもだ。
“獣の死を捧げよ”という
名前:バレット
天恵職:
所有ポイント:3P(LV2の必要ポイント:32P)
所有弾薬:10(弾薬購入ポイント:1P/一発)
嫌な予感はしていたが、それが現実のものとなった。それが逃げられない運命だとしたら、あきらめて向き合うほかないんだが。
「“
俺が口にすると、目の前に現れたのは黒く小さな
バレットにとっては初めて見る代物だろうが、俺は嫌というほど見慣れていた。
スミス&ウェッソン
前の人生では何度も危地を乗り切った、とっておきの切り札ではあったが……。
「……
使用弾薬は、38スペシャル。警察が“過剰な殺傷能力”を避けてきた時代の実包だ。威嚇以上の効果は薄い。その威嚇自体も、銃を知らない相手には無意味だ。
おまけに、このポイントってのが曲者だった。
どうしろというのかは、わかる。神の意思としてなのか、頭に入ってきている。“
その死がポイントになり、レベルアップにつながる。ずいぶんと意地の悪いルールを押し付けてきたもんだ。
しかも、弾薬も同じポイントで
いまある10発の
当然ながら、弾薬購入で消費されるポイントはレベルアップの足を引っ張る。それどころか、10発を使い切るまでに十分なポイントを手に入れられなかったら、そこで詰む。
当然だ。この世界で、他に銃弾を入手する方法なんてないんだから。
表示されている“3ポイント”が、仕留めた三匹の“
銃を使っても、差し引きゼロ。一発でも外せば
もっとポイントの高い獲物を狙うか? いや、38スペシャルで大型の獣は殺せない。人間でも一発ではなかなか死なないのだ。野生の獣なら、さっきのウサギがせいぜいだ。
さらに悪いことに、
バレットの腕なら、短弓の方がはるかに優れている。
いったん銃のことは忘れて、弓や短刀で殺すか。だったら弾薬消費を気にせずレベルアップに
神の意思表示は明白だった。
銃で殺せと、そう言っているのだ。
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