第2話 神の名のもとに
「ただいまにゃ~♪」
シェルを連れて孤児院に帰った俺は、院長のシスター・クレアに“天恵の儀”が済んだことを報告する。
無事に“天恵職”を得たことは喜ばれたが、それ以上は何も訊かれなかった。
彼女は若いころ
「シェル、バレットが心配だったのはわかりますが、黙って抜けだすのはいけませんよ」
「あい!」
シェルは、いつも返事はいい。でもたぶん、反省はしてない。そのあたりも猫っぽいな。
彼女が駆け去った後で、シスターが俺に尋ねてくる。
「バレット、これからどうするかは決めましたか?」
「変わっていない。明日、
バレットは冒険者ギルドで、ずっと子供でもできる仕事をこなしてきた。駄賃の半分ほどは孤児院に入れ、残りをギルドの
自分とシェルに必要な出費もそこから出していたため、現在は銀貨で三十枚。元いた世界の貨幣価値で三百ドルほどにはなっている。この世界では、新生活を始めるのに十分な額だ。
ただしそれは、男ひとりが
領府は
「できるだけ早く、あいつを引き取れるだけの食い扶持を確保する。そして、あと銀貨三十枚稼いだら、シェルを迎えに来る」
シスターには、事前に伝えてある。意思が変わっていないか確認しただけだ。
当然シェルにも話してあるが、実際のところ話し合いはバレットとシェルの間で行われたものだ。記憶として知ってはいても、俺にはふたりの心情までは測りかねる。
「冒険者になるのですか」
「獣人だから。他に生き方が選べるとは思ってない。得られた“天恵職”も、たぶん冒険者以外では使い道がない」
“
シスターは俺を見て、ふと怪訝そうな顔をした。俺のなかのバレットがわずかに緊張するのがわかった。この女性、昔から妙に勘が鋭い。隠し事などできた試しがなく、子供たちからは慕われつつ恐れられてもいた。
そもそも、少しばかり違和感はあった。目の前に立つシスターは少し陰のある妙齢の美女だけれども、バレットが物心ついたときからずっとこの姿だった。子供たちや街の住人からは、長命種である“エルフ”の血を引いているのではないかと噂されていた。
この世界には、そんなもんまでいるのか。そりゃ、いるか。魔法があって魔物や
本当に、
「
「俺?」
バレットの意思は、もう伝えた。再び訊いてきたことで一瞬、深読みしそうになるけれども。この手の漠然とした質問は、後ろ暗いことを隠している相手から話を引き出すための基本だ。すんなり流せば問題ない。
「いいもなにも、自分で決めたことだ」
俺が生まれ変わった――というかバレットのなかに俺が生まれたというか、この状況を勘づいたのかとも思ったが、年齢不詳の美人女史は首を傾げてにこりと笑った。
「そうですか。無理はしないように」
「大丈夫、心配ない」
実際そうでもないんだが、シスターには軽く答えておいた。
明日からは忙しくなる。その前に、神らしきものの託宣を試してみなくちゃな。
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