野良犬ガンスリンガー ――転生したから今度こそ平和に暮らしたいのに、死を望む神が俺を逃がしてくれない――
石和¥「ブラックマーケットでした」
第1話 悪意の覚醒
「あなたの“天恵職”は、“ガンスリンガー”です」
「あ?」
いきなり見知らぬジジイからワケのわからんことを言われて、俺は思わずチンピラじみた声で応える。
長い眠りから無理やり叩き起こされたような感覚。いや、記憶がよみがえったのか。人狼の少年バレットのなかに、“俺”という存在が目覚めた。
かつて騙し合いと殺し合いの世界で生きてきた老いぼれの“俺”と、
「……ウソだろ、おい……」
まさか俺が、
それも
「なにか不満でも?」
呆れて首を振る俺に、司祭が硬い声で訊いてくる。
周囲の目があるので態度にこそ出さないが、
「
小馬鹿にしたような“俺”の口調に、司祭が不快そうな顔をした。獣人ごときが不遜な口をと思われたのだろうが、知ったことか。
「知るわけがないでしょう、半獣の
唇をゆがめて見下ろす司祭はもう、獣人への差別意識を隠そうともしない。
「おいおい、知りもしないことを偉そうに
「神の声は伝えました。早く立ち去りなさい」
犬でも追い立てるように儀式の列から放り出され、俺は改めて周囲を見渡す。
礼拝堂のような場所に、司祭と子供たちが四十人ほど。
「ここは……?」
メルデ王国北西部、コンドミア子爵領の領府にある教会。戸惑う俺に、バレットの記憶が教えてくれた。
この国では十五歳になると、各領地の教会で“天恵の儀”を受ける。司祭が魔法の水晶玉で、それぞれの“天恵職”を鑑定してくれるのだ。
“天恵職”というのは、ひとより優れた資質。ひとより秀でた力のことだ。向き不向きなどという話ではなく、地道に努力を重ねるよりもずっと早く、ずっと簡単に、ずっと確実に能力が上がる。
だから、誰もが
実質、この場で人生が決まる。
「今度の人生も、ずいぶんろくでもねえもんになりそうだな……」
「にーたん、“天恵職”なんだったにゃ~?」
ため息を吐いた俺に駆けよってきたのは、猫獣人の女の子シェル。“バレット”と同じ孤児院で育った妹分だ。まだ七歳なので儀式とは関係ないのに、俺がどんな“天恵職”をもらうのか気になってついてきたようだ。
「“
「……それ、なんにゃ?」
まあ、わからんだろうな。鑑定した司祭でも知らんくらいだ。
バレットは、
これまでも、たぶんこれからも。この世界に銃など現れない。“
「おい、獣人がいるぜ?」
「ケダモノくせえんだよ! さっさと出てけ!」
儀式を受けていた子供たちが、俺とシェルを見て罵ってくる。バレットの記憶によれば、領府によくいる獣人差別主義者たちだ。連中は徒党を組んで“天の狩人”を名乗っており、その元締めは教会だというから呆れるほかない。
苛立った俺は思わず殺意を込めた視線を向ける。
「ひッ!」
蒼褪めて逃げ出すガキどもを見ても、なんの感情もわかない。まったく、未開世界ってやつはどうしようもねえな。
そうやって憎み蔑み貶める獣人や亜人たちにまで、国や教会が“天恵の儀”を受けさせるのは当然ながら善意や権利意識からではない。“天恵職”を得たものは今後、大人として各種の税が課せられる。法的にも心情的にも子供としての扱いはなくなり、孤児院からも追い出される。
国や教会が保護を打ち切る、いわば“手切れ金”のようなものだ。
その間にもグダグダと儀式は進み、子供たちはひとりずつ“天恵職”を与えられて一喜一憂する。
“
街の子たちにはよくある平凡な職が告げられ、俺のなかのバレットがうらやましがる。バレットが望んでいたのは、そういう“ふつうの職業”だったみたいだからな。
ご愁傷様、ではあるが無理な願いだ。
ひと通り済んだ後は、身なりと体格が違う子供たちの番になった。
“
噂によると、親の職業に近いものを授かることが多いらしい。本当かどうかは知らない。バレットは両親がどんな“天恵職”だったのかも知らないから、本当でもウソでも、どっちでもいい。
義妹と幸せに暮らせる職業なら、なんでも。
小一時間ほどで、全員が“天恵の儀”を受けた。いくつか重複もあったが、当然ながら“ガンスリンガー”なんてもんはない。
儀式の終了が告げられ、司祭は子供たちの前で簡単に祈りをささげる。
「では、みなさん。最後に、神への感謝を」
「「「感謝を」」」
子供たちは、そろって手を合わせる。俺もそれに
「いま、目の前に“
なるほど。司祭のほざいた理屈はわからん。納得もいかんが、やるべきことは理解した。
……問題は、だ。
名前:バレット
天恵職:
これが、ホントに神なのかって話だ。
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