第3話 急襲

まるで大切なものを抱えて離さない子供の様に、必死に文明跡テッカーを抱え浮上する。浮上の際、眩暈と吐き気が襲ってきたがそれよりも自分が文明跡テッカーを手に持っているという興奮が大きかった。

身体に鞭を打ってでも地上に持って帰りたい。潜泳者ダイバーになりたい。

期待と興奮が心の中でとぐろを巻く。混ざり合い、いつの間にかそれは

自分が潜泳者ダイバーになれるという確信に変わっていた。


深度が10ラット(1000m)に差し掛かったところだった。

一瞬スーツから微かな痛みを感じる。直後電流が走ったかのように体中に痛みが走った。反射的に文明跡テッカーを手離し、水中で声にならない叫びをあげる。痛みに慣れ目を開けたころには自分の身に大きな危険が迫っていることが分かった。

スーツの棘が大きくはれ上がり、強大な存在に威嚇するかのように毒を放っていたのである。


昔、書記でこんな話を呼んだ。

水中生物は生命力が非常に高くスーツにされて尚、その生物の特性や能力が残る場合があると。海虎マリンバルーンの特性は、危険を察知したら棘を突き出すだった。

自分の身に危険、それもかなり大きな危険が迫っていることを肌にビリビリと感じる。


海底へと無慈悲に沈んでいく文明跡テッカーをちらりと見た後、必死に四肢を動かす。

毒のせいで動きが鈍くなった両足を動かす。視界が霞み徐々に身体の感覚がなくなっていった。あれだけ愛しく感じた水の感触さえも身体は認知できないのか。


太陽の光を殺す水の中。暗く自分が小さな存在に見える。淡くぼやける視界が微かに捉えたものは二頭のティアマトだった。

ティアマト。それは別名海のギャングと呼ばれる残忍かつ狡猾な狩人。

単体での殺傷能力はもちろんのこと、その恐ろしさは団体で襲ってきたときに発揮される。


僕の回りを二匹でぐるぐると回った後、尾びれを美しく湾曲させ水ごと僕を打ち付けた。

右腹に強烈な衝撃が走り意識は途絶えた。

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