第18話 ピットブル商会
「そういえばお姉さんってどこから来たんすか?」
「あなたに言う必要ないでしょ」
「つれないっすねー。お館様が気にしてるんすよー。どこからどう見ても貴族っすから。でもこの国のお姉さんぐらいの年齢の貴族令嬢で、お姉さんぐらいぶっ飛んだ人は情報がないんすよ。だから他国の令嬢なのかなーって。下手な事したら外交問題とかになるっすよ」
「心配しなくても私は平民よ。お館様とやらにもそう伝えなさい」
「いやいや、その気品で平民は流石にそれは無理があるっす。アイテムボックスも持ってるっすし」
男から情報を絞って『毒蜘蛛』のアジトに向かう道中、カゲオがやたらとグイグイくるようになったわ。
多分警備兵との対応を見せて、カゲオが誰の紐付きか、私がある程度理解したと思ったんでしょう。
軽薄な感じは変わらないけど、積極的に情報を聞いてくるようになった。私がまどろっこしい事が嫌いっていうのも、これまでで理解したんでしょうね。遠回しな聞き方じゃなくて、ストレートに聞いてくるわ。
まあ、私は言う気はないけれど。というより説明出来ない。気付いたら森の中の小屋でホムンクルスになってましたなんて言ったら、頭がおかしい奴って思われちゃうわ。
この世界にホムンクルスが存在するのかどうかも分からないしね。あの錬金術師が自分の持てる力を全て注ぎ込んだ作品が私だし、恐らく私だけだとは思ってるけれど。
まあ、私が適当に言ってれば、向こうが勝手に辻褄を合わせてくれるでしょう。嘘は言ってないしね。
私が貴族だと気にして、領主から過剰な干渉を避けられれば万々歳よ。カゲオはそんなの気にせずにグイグイくるけれど。
「それよりもピットブル商会について、何か知ってる事はないのかしら?」
「えー。俺っちには情報を教えてくれないのに、そっちだけ聞いてくるんすかー」
「私と同行して、好きなだけ情報を抜けば良いじゃない。情報を手に入れられるかどうかは、あなたの手腕でしょ」
「そう言われると弱いっすねー」
「それで?」
「ピットブル商会っすか。この公爵領ではそこそこ大きい商会っすね。今の商会長は二代目で、結構あくどい事をやってるって噂もあるっす。先代は良い人だったんすけどね。今の商会長は、正直好かないっす」
ピットブル商会。
股間を潰した男から聞いたのは、この商会が私を攫うように『毒蜘蛛』に依頼を出したらしい。主に魔物素材を扱ってる商会らしいから、多分ハーヴィー目当てかしらね。
で、そこの商会長は好色って話だから、ついでに私も攫っておこうとか、そんな感じかしら。
「あくどい噂がたってるはずなのに、領主は何も対策とかはしなかったのかしら?」
「噂だけじゃ動けないっすよ。一応内偵を進めて『毒蜘蛛』と繋がってるらしいって事は分かってたんすけど」
「ふーん。そういうものなのね」
カゲオが領主の紐付きって確定したわね。簡単に漏らしたけど、良かったのかしら? カゲオのうっかりなら、まあまあのやらかしよ?
「調査を進めてたところで、お姉さんが『毒蜘蛛』とドンパチ始めたもんすから、びっくりしたっすよ」
「喧嘩売られたんだもの。私は悪くないわ。やられたら100倍返しよ」
「まあ、でも助かるっすね。こっちも領内で、人が襲われたってなら捜査しない訳にはいかないっすから。芋蔓式に『毒蜘蛛』とピットブル商会を挙げてやるっす」
「私は良い餌だったって事ね」
「いや、ほんとたまたまっすよ? お姉さんがここに来てまだ数日じゃないっすか。俺っち達が狙ってやった事じゃないっす」
「分かってるわよ」
領主は運が良かったわね。私を貴族だと疑って情報収集してたら、闇組織一つとそれに繋がってるピットブル商会を処理出来るんだから。
まあ、面倒な後始末は領主がやってくれそうなのは助かるわ。私は私に喧嘩を売ってきた奴等を消せれば文句ない。
最初にガツンとやって、裏社会に私の名前が響き渡れば、馬鹿をやる人間も減って、少しは快適に異世界ライフを楽しめるでしょ。
そんな事を思いながら、スラムの道を歩いて行って、男から聞いた『毒蜘蛛』のアジトに到着した。
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