第17話 休戦


 男…名前を知らないから、とりあえずカゲオね。


 私とカゲオが一触触発な雰囲気で、向かい合っていた時。


 「お前達何をしているっ!」


 ピピッーと笛を吹きながら警備兵が十人ぐらい走ってやってきた。スラム付近での出来事とはいえ、これだけ派手にどんちゃん騒ぎしたら、警備兵も来るみたいね。


 それよりも笛ってあるのね。まあ、作りは簡単でしょうし、あっても不思議じゃないか。


 「あー。騒ぎすぎたっすね」


 「そうみたいね」


 男はさっきまでの殺気だった態度から一転して、またヘラヘラと軽薄な感じに変わる。変わり身が凄いわね。


 「こ、これは…」


 「おげぇぇぇっ!」


 駆け付けた警備兵は、現場の惨状に絶句していた。中には新人なのか吐いてる人もいる。


 まあ、焼死体や体が千切れて内臓が飛び散ってる死体はグロテスクよね。私は何も感じないけど。………やっぱり何も感じないのは流石に問題かしら?


 「ここは俺っちに任して下さい」


 この惨状をどうやって説明しようかしらと、考えてるとカゲオが自信満々に警備兵に話しかけに行ったわ。警備兵に顔が効くのかしら?


 「これは! お疲れ様です!」


 「今『毒蜘蛛』を追ってるところなんすよ。あのお姉さんは協力者で、身分は俺っちが保証するっすよ」


 カゲオが警備兵に懐から出した何かを見せると、警備兵は畏まった様に敬礼していた。顔が効くなんてもんじゃないわね。やっぱり領主の子飼いの線が濃厚かしら。


 どうしてずっと監視してたのかは分からないけれど。領主なら私に用があるなら、呼び出せば良いだけじゃないの? 私的に貴族はそういうものって思ってるのだけれど。


 「どうっすか?」


 「………まあ、感謝するわ」


 「にしししっ。これで俺っちの事も信用してくれるっすね!」


 「それとこれとは話が別よ」


 感謝はするけど、信用はしないわ。本当になんか受け付けないのよ。


 「手厳しいっすねー。でもこれで俺っちと行動しないといけなくなったすね!」


 「私は一人でも良いわよ?」


 でも癪だけど、カゲオと行動した方が都合は良さそうね。この後も『毒蜘蛛』とドンパチやるつもりだし、その度に警備兵が出張ってきて説明するのはめんどくさいわ。


 「じゃあ、まずはこの男から情報を聞き出しましょうか」


 「そうっすね。狸寝入りしてるっすし」


 警備兵が来た辺りで気を失っていた男は目を覚ましていたわ。呼吸が不自然に変わったし。そんな事も分かるようになるなんて、ほんとこのホムンクルスボディは優秀だわ。


 「『毒蜘蛛』の首領がいる場所と、私を攫うように依頼してきた相手を教えなさい。じゃないと、また股間を踏み潰すわよ」


 「おぉ…。また縮み上がりそうっす…」



 ☆★☆★☆★



 「ひでぇな…」


 「ああ…。あれなんて生きたまま食われたんじゃねぇか?」


 この場を任された警備兵達は、顔を顰めながら死体の処理を行っていた。


 スラム付近で建物が燃えていると通報があって、来てみれば惨殺死体が大量に転がってる現場だ。『毒蜘蛛』の構成員らしいが、それでもやり過ぎじゃないかと、警備兵達は思っていた。


 「あの女性がやったんだよな…」


 「人は見かけによらないな。貴族みたいな人なのに」


 「あれって、少し前に警備兵達の中でも話題になってたよな。とんでもない美人テイマーがやってきたって」


 「あの魔物も恐ろしいぜ…」


 少し離れた場所で一人の男が、件の女性から尋問を受けている。従魔もすぐ近くで座ってその光景を見ていて、男は顔を真っ白にして話を聞き出されている。


 「あ」


 「ひえっ…」


 少しして話が終わったのか、女性が男の股間を踏み抜いた後、頭を踏み潰した。その光景を見ていた警備兵達は、自分の股間に手を当てて小さく悲鳴をあげる。


 「申し訳ないのだけれど、この死体もお願いして良いかしら」


 「は、はい! お、お任せ下さい!」


 女性は殺した死体を引き摺って、警備兵達の所に持ってきて処理を頼む。一連の行動を見ていた警備兵達は最敬礼をして死体を預かる。


 女性は笑顔でお礼を言った後、もう一人の男と共にどこかに去って行った。


 「いくら美人でもあれはなぁ…」


 「やっぱり女性はお淑やかじゃないと」


 「いや、俺はあんな美人に踏まれるなら…」


 「最後の笑顔…。良い…」


 少しばかり警備兵の性癖を捻じ曲げて。

 

 

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