第16話 ガチ勢


 ウロボロスを出した瞬間。何故か地面から鋭い視線を一瞬感じた。あの男が地面から見てる? さり気なく周りを見渡してみたけれど、もう今は特に違和感がない。


 「どういう才能ギフトなのか気になってきたわね。まあ、先にこっちを処理してしまいましょうか」


 ハーヴィーは既に嬉々として、襲撃してきた『毒蜘蛛』の構成員に猫パンチを繰り出している。私も遅れを取る訳にはいかないわ。


 「はっ!」


 剣を振り伸ばす。襲撃者達は剣が伸びると思ってなかったのか、その場でポカンとした表情をしたまま首を刎ねられていく。


 蛇腹剣の使い方もそれなりに上手になってきたわね。いつかは手足の様に自由に動かしてみたいわ。特殊な武器なだけに、まだまだ時間は掛かるでしょうけど。


 「ちくしょう! 魔物さえ抑えりゃ女の確保は楽勝だって言ってたじゃねぇか! こんなの聞いてねぇぞ!」


 「あら? 気になる事を言ってるわね」


 あの男は確保しましょう。依頼した人物について話を聞けるかもしれないわ。何か間違った情報を流されてるみたいだけれど。


 それに魔物も抑えられてないじゃない。ハーヴィーは相変わらず楽しそうに暴れてるわよ?


 『毒蜘蛛』はこの都市でそれなりに力がある組織と聞いていたけれど、もしかして大した事がないのかしら? 計画が杜撰すぎるわよ。


 「楽しそうね、ハーヴィー」


 「ガルルルッ!」


 ハーヴィーが襲撃者達を咥えては投げ、咥えては投げを繰り返している。投げられる瞬間に、手足が千切れたり、首が飛んで行ったりしてるけど、その辺はご愛嬌よね。


 「な、なんなんだ、この剣は!!」


 気になる事を言ってた男をウロボロスで巻き付けて捕獲する。これは力加減を間違えると切り刻んちゃうから、注意しないといけないのよね。だから、そんなに暴れないで欲しいわ。


 「ハーヴィー、残りは全部始末して良いわよ」


 「ガルルルッー!」


 「ちくしょう…ちくしょう…」


 「さて、じゃあ色々話してもらいましょうか」


 「ぎゃぴっ!」


 「あ」


 ウロボロスで男を私の目の前に引き寄せて転がし、ヒールで男の股間を思い切り踏みつけた。潰す程の威力で踏むつもりはなかったのだけれど、自分でも思ったよりイライラしてたのか、ぶちゅっとやっちゃった感触があるわね。


 男は泡を吐いて気絶しちゃったわ。情報を抜かないといけないのに…。


 でもそのお陰で…。


 「ねぇ、覗き見はやめて出て来てくれる? 不愉快よ」


 「うへぇ。バレてるんすか。隠密行動には自信があったんすけど」


 私がそう言うと、魔法を打たれた時から姿をくらませていた、軽薄な男が影からニュルっと出てきた。


 …………私が思ってた場所とは全然違うところから出てきたわね。男の股間を潰した瞬間に、また地面から視線を感じて、ドヤ顔で言ってみたのだけれど。まさか影から出てくるとは思ってなかったわ。


 恥ずかしいから、最初から分かってましたみたいな顔をしておきましょう。視線は感じてたのだから、ほぼ正解みたいなもんよ。

 

 それにしても、この男…。私を監視してる時はあからさまな視線を向けてたくせに、隠れてる時は全然視線を感じなかったわね。


 ウロボロスを出した時と股間を潰した時だけ、動揺して隠密行動が崩れたって感じかしら?


 昨日監視してた人物とは別と思って良いのかしらね。昨日の男は最初から最後まで丸分かりだったし。下の人間じゃ対処出来なくて、上の人間に監視任務が変わったってところかしら。あくまで推測だけれど。


 やっぱりこの男は使いっ走り程度じゃないわよねぇ。


 「グルルルル」


 「お疲れ様」


 私がヘラヘラしてる軽薄な男の素性について考えてると、ハーヴィーが始末を終えたのか、褒めろ褒めろと撫でられにやって来た。


 ほんと可愛いわ。口元に血や肉片がついてるのは、見る人から見ればホラーかもしれないけれど。私からすると誤差よ誤差。


 「さて、この男が目覚めるまでちょっと時間が掛かりそうだし。それまでの時間潰しにあなたも始末しましょうか」


 「えぇ!? なんでそうなるんすか! 大体男が気絶してるのはお姉さんのせいっすよね!? 俺っちも思わず縮み上がっちゃったすよ!」


 「手加減に失敗したのよ。他意はないわ」


 「ちょ、ちょっと待ってくださいっす! ほら、剣を下ろして! 俺っちはお姉さんと敵対しないように出てきたんすよ!?」


 「だから、私はそれを信用しないって言ってるでしょ」


 「こ、困ったっす…」


 ハッタリで言ってみたけど、案外なんとかなるものね。男の才能ギフトが影に潜る系だと仮定して、影に逃げられると攻撃手段がないのだけれど。光源を用意するぐらいかしらね。


 自信満々に始末するとでも言えば、こっちに対抗策があると思わせる事が出来てるわね。実際は監視されてても気付ける自信がない。男が動揺した時ぐらいしか、視線は分からなかったからね。


 だから、牽制の意味を込めて強気に出る。


 「うぅ…。お館様に怒られるっすね…」


 「そのお館様の人選ミスね。私に用があるにしても、もっと信用出来るような人物を送り込んでくるべきだったわ」


 私がそう言った瞬間、私の影から槍が飛んできた。


 「お館様を悪く言うのは許さないっすよ!!」


 「いや、どちらかと言うとあなたを貶したのだけれど…」


 あっぶなー。全然反応出来なかったわ。結界が弾いてくれたからなんとかなったけど。


 なんなのよこいつ。お館様ガチ勢じゃない。

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