第14話 接触


 冒険者ギルドに依頼達成報告をしてから、宿に戻ってきた。湯船に浸かって体をリフレッシュさせてからベッドの上に寝転がり、ハーヴィーを撫でつつ、これからの事を考える。


 「『毒蜘蛛』さんねぇ。どうしようかしら。知り合いもいないし、やっぱり特攻するぐらいしか、思い浮かばないのよね」


 下っ端の溜まり場に突っ込んで、そこでも情報を収集して、そこから上の人間を探していく。いずれは、ボスまで辿り着けるかもしれないけれど。


 ちょっとやり方がまどろっこしいのよね。もしかしたら、向こうがビビって潜っちゃうかもしれないし。


 「それに私を攫う? 痛め付ける? まあ、なんでも良いけど、その依頼をした人物の事も知りたいのよね」


 「グルルルッ」


 私の利用価値なんていっぱいあるものね。この容姿は、下半身でしか物事を考えられないクズには格好の的でしょうし、権力者や商人はアイテムボックスも気になるでしょう。


 もしかしたらハーヴィー目当てかもしれないわね。今思い付くだけで、これぐらいの餌がある。


 「とりあえず明日は依頼を一つ受けて、『毒蜘蛛』の下っ端が溜まり場にしてる酒場に行きましょうか。そこで『毒蜘蛛』を挑発するなり、馬鹿にするなりしたら上の人間も出て来ざるを得ないでしょ。ああいう組織ってメンツとかが大事でしょうし」


 私の実力がどこまで通用するのかを確かめる良い機会だわ。もし本気でヤバそうなら逃げるけどね。私にはそこまでプライドはないし。


 舐められるのは腹が立つけど、命には代えられないもの。いつか死ぬとしても、もう少しこの世界を楽しんでからにしたいわ。街に到着して数日でリタイアは味気ないものね。



 翌日。冒険者ギルドでまた荷物運びの依頼を受けた。広い都市だからか、こういう依頼って結構あるのよね。昨日と同じようにアイテムボックスに荷物を放り込んで、目的地まで運ぶ。



 「じゃあ『毒蜘蛛』の溜まり場に行きましょうか」


 依頼達成報告をギルドにしてから、今日のノルマは終了。これなら明日からは複数依頼を受けてもいいかもしれないわね。


 ハーヴィーの背中に横乗りになって、スラムの近くにある酒場に向かう。表通りの治安は悪くないけれど、この辺はやっぱりダメね。


 ハーヴィーにビビって逃げるチンピラもいるけれど、隙あらば襲ってやろうって男達も結構いるわ。


 「あそこね」


 酒場の前にはチンピラが三人ほど見張りも兼ねてるのか、地べたに座っている。


 「ハーヴィー。踏み潰しなさい」


 「ガルルルッ!」


 私はハーヴィーから降りて、店の前に座ってる三人にけしかける。問答無用よ。この店には『毒蜘蛛』の関係者しかいないって聞いてるもの。


 「な、なんだ!?」


 「ひぃぃぃいいっ!」


 「ぎゃぴっ!」


 ハーヴィーは私が降りるとすぐさま突進。大きい足でチンピラ三人組を猫パンチで地面の染みにする。そしてそのまま店の中に突っ込んで行った。


 体長3mを超える魔物が急に酒場で暴れ回る。敵ながら少し哀れになるわね。


 「ぎゃーっ!」


 「なんだってんだよ!」


 「落ち着けお前ら! 固まって対処しうわぁぁっ」


 固まったらハーヴィーの良い的じゃないの。まとめて踏み潰されちゃったわ。


 ハーヴィーが店の中で暴れて数分。断末魔が聞こえなくなったので、私は店に入る。


 何人か生きてるけど五体満足とはいかないわね。腕や足が変な方向に曲がってたり、千切れてたり。それはもう酷い事になってるわ。


 「お疲れ様。良くやったわ」


 「グルルルッ」


 ハーヴィーを撫でて褒めると、満足したのか、散らばってる酒場の料理を食べ始めた。拾い食いはばっちいから、やめさせたいのだけれど、美味しそうに食べてる姿を見てると、止め辛いわね。


 人間の血とか肉片とかも飛び散って料理についてるけど、本当に美味しいのかしら? 少なくとも私は食べようと思わないわね。


 「お、お前こんな事してタダで済むと思ってんのか…」


 「先に手を出してきたのはそっちでしょ」


 「今に幹部の奴らがお前を殺しにくるぞ…」


 「あら。それは楽しみね」


 私はそう言って、ヒールで男の顔面を踏み潰す。昨日は返り血を浴びちゃったけど、同じ失敗はしない。今日は足を結界で覆っておいたからね。綺麗なままで強者らしい事ができたわ。


 「幹部の連中が私を狙ってくれるのはありがたいわねぇ。ここで待ってたら沸いてくるのかしら?」


 これからどうしようかと思ってたけど、向こうから来てくれるなら都合が良いわね。何人か逃げてるのをわざと見逃したし、そのうちやり返しにやってくるでしょう。


 私は準備をしてここで待ってれば良いわ。


 「ん? あら?」


 今日も飽きずに監視していた視線の人物が、恐る恐るといった感じで近付いてくる。


 昨日は干渉してこなかったのに、今日は何かあるのね。


 「す、すみませーん。今からそっちに行きますけど、襲わないで欲しいっすー」


 「グルル?」


 「だめよ。なんの用か気になるもの」


 ハーヴィーが食べる? みたいな感じで聞いてくるのをとりあえず抑える。一応襲われた時の準備はしつつ、酷い有様になってる酒場の中で監視されていた人物を迎える。


 はてさて、一体なんの用かしらね? 監視の目的も気になるわ。私の予想はそこそこ上の権力者なのだけれど。

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