第13話 毒蜘蛛


 「この状況でも干渉してこないのね…。一体なんの目的で監視してるのやら」


 男四人に囲まれてる。それは良いわ。馬鹿を釣る為に、ちょっとだけ目立つ行動をしていた自覚はあるもの。


 でも私が気になってるのは、昨日からずっとある監視。これに関しては不快な視線じゃなかったから、とりあえず放置しておいたんだけど、この状況でも干渉して来ないなら、何が目的で監視されてるのか分からないわね。


 「何を言ってやがる! おい! さっさとやっちまうぞ!」


 「おう!」


 私が監視の目的を考えてると、チンピラ達が襲い掛かってきた。それを見てハーヴィーが動こうとしたのを静止する。


 もう遭遇して呑気に喋ってる間に結界を展開してるのよね。展開速度に難があるけど、これだね時間があれば確殺よ。


 「は?」


 下卑た顔をして襲ってきたチンピラ三人の顔に展開した結界を圧縮する。ぐちゃりと肉が潰れる音がして、首から上がそれはもう無惨な事に。中々グロテスクな感じになって、残した一人のチンピラは、何が起こったのか分からないのか、行動を止めてしまった。


 そのチンピラの両足を同じように結界で潰して逃げられないようにする。誰かに依頼されたような事を言ってたし、情報を聞き出しておきたいのよね。


 「ぎゃあぁぁぁぁあ!」


 「うるさいわね」


 人を殺した。やっぱり何も思わないわ。これが良い事なのか、悪い事なのか。人としての感受性が薄れたりしてないわよね? まあ、私は人じゃなくてホムンクルスなのだけれど。


 監視していた視線が少し動揺してるように思う。それでもこちらに介入してくる気配はないわね。ほんとに何が目的なのかしら?


 「まあ、まずはこっちね。ほら、男でしょう。ピーピー言ってないで、もう少し頑張りなさい」


 潰れた足を踏みつけると男はまた悲鳴をあげる。こんなぐちゃぐちゃになっても、神経とかはまだ無事なのね。


 「私を襲うように頼まれたんでしょう? 一体誰の依頼?」


 「し、知らねぇ! 俺達は上から頼まれただけなんだ! た、頼む! 助けてくれ!」


 「上って? 助かるかどうかはあなたの返答次第よ。キリキリ吐きなさい」


 「ど、毒蜘蛛だよ! 俺達は毒蜘蛛の下っ端なんだ!」


 「毒蜘蛛ねぇ」


 知らないわね。昨日この都市に来たから当たり前なのだけれど。この男によると、この都市で有名な裏組織みたい。金回りが良くて、色々悪どい事にも手を出してるとか。


 「お、俺が知ってる事はこれで全部だ! 頼む! 助けてくれ」


 「そうね」


 「ぐぴっ」


 私は男の喉をヒールの尖った部分で踏みつける。あ、返り血が少し掛かっちゃったわ。やっぱり結界で殺せば良かった。漫画みたいに上手くいかないものね。


 「さて、どうしようかしら。毒蜘蛛とかいう組織を潰したいのだけれど。流石に一人で特攻は無謀かしらねぇ」


 「グルルル」


 「そうね。ハーヴィーも一緒よ。一人じゃなかったわ」


 一応溜まり場というか、下っ端構成員が屯している場所は聞いたからそこに行っても良いのだけれど、私の実力がどこまで通用するかがイマイチ分からないのよね。突っ込んで行って返り討ちなんてダサいし…。


 でもこのまま放置っていうのはムカつくのよね。まさかいきなり大きそうな組織が引っ掛かるとは思ってなかったのよ。行き当たりばったりで行動してる弊害ね。


 「とりあえずギルドに戻って宿に帰ってから考えましょうか。どうせロクな案は思い付かないでしょうけど。ハーヴィー、行くわよ」


 死体を足でつついて遊んでいたハーヴィーに声を掛けてその場から離れる。一応死体はアイテムボックスに回収しておいた。


 この期に及んでもまだ介入してこない監視の視線の方に向いて、とりあえず笑顔を振り撒いて歩き出す。特に意味はないけどね。



 ☆★☆★☆★



 「やべぇやべぇやべぇ! なんだあの女! イカれてんのか!」


 ジャスミンを監視していた男は、こっちを見て笑顔を見せて去っていったのを確認して、大きく息を吐いて頭を抱える。


 男は当初、ジャスミンの監視を言い渡されて役得だとテンションが上がっていた。


 見るからに上流階級の女で、万が一揉め事になりそうなら、介入して恩を売れと。そう言われて始めた監視任務。


 早速チンピラに絡まれて、介入する隙を見計らっていたら、急に男達の頭が潰れた。更に、男の足がぐちゃぐちゃになったのだ。


 ピンチを颯爽と助けて、あわよくばそこから良い仲に、なんて考えはすぐに吹っ飛んだ。


 人を殺しても全く表情を変えず、淡々と拷問してる姿。そして監視がバレていたのか、最後にこちらに向けた笑顔。


 どれだけその笑顔が美しかろうが、あんなのを見た後だと恐怖しかない。


 「一体なんて報告すれば良いんだよ…。なんの才能ギフトかもさっぱり分からねぇし。あんなの見た事ねぇぞ。魔法か? あー、マジで分からん。しかしダブルなのか確定か」


 男はぶつぶつと独り言を呟きながら、頭の中を整理して、ジャスミンを追いかける。監視がバレてようが、交代の人員が派遣されるまでは続行しなければならないのだ。


 「女は顔じゃねぇ。やっぱり中身だよな、うんうん」

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