第12話 不穏な空気


 ☆★☆★☆★



 「それで? どうなのだ?」


 「はい。先程、実際この目で確認して参りました。やはりあの魔物は希少な種である事は間違いありません。念の為ベテランの冒険者にも話を伺ってきましたが、誰も見た事はないと」


 「くふふふ。そうかそうか。それは重畳。色々使い道がありそうではないか」


 「すぐに行動に移しますか?」


 「うむ。聞けば飼い主は良い女らしいじゃないか。そっちも確保してわしの妾に加えてもやっても良いな」


 「では、両方確保という事で」


 「ああ。さっさとわしの前に連れてこい。女の方は飽きたらお前達にも回してやる。魔物は剥製にするか? それともわしのペットにするか…。まあ、色々使い道はあろう」



 ☆★☆★☆★



 「まさか、こんな美人さんに来て貰えるなんてねぇ。なんだか申し訳ないわ」


 「気にしないで。仕事だもの。それにこの依頼は私に合ってるからね」


 「じゃあ、これとこれをお願いねぇ」


 冒険者ギルドで説明を受けた後、私はとりあえず掲示板を見て依頼を受けた。


 まあ、ただの荷物運びなんだけど。娘さんがこの領内の人と結婚して、ちょっと離れた所に引っ越したみたい。それでその娘さんの家具やらを運んで欲しいと。


 依頼を出したおばさんは私が来てとてもびっくりしていた。最初は貴族と間違えられて平伏されて、なんとか宥めた後はハーヴィーをみてびっくりして腰を抜かして。


 依頼を受ける前に時間を取りすぎたけど、おばさんはなんとか平常運転まで戻った。今ではハーヴィーを撫でるぐらいには平常運転よ。これはこれで慣れすぎじゃないかと思わなくもないけれど。


 まあ、ハーヴィーは可愛いものね。慣れたらその可愛さにメロメロになるってものよ。私の自慢の相棒なんだから。おばさんももふもふな毛並みにうっとりしてるわ。


 「アイテムボックスがあると、こういう依頼は楽ね。重労働の割に報酬が安いから残されがちになってるみたいだし。まずはこういう塩漬け依頼をこなしていきましょうか」


 「グルルル」


 ハーヴィーに横乗りに座って目的地まで進む。かなり目立ってるけど、こればっかりは仕方ないわね。ハーヴィーは大きいし、私も容姿で目立つし。


 こういうのは下手に隠そうとせずに堂々としてる方が良いのよ。時間が経てば、さっきのおばさんみたいに受け入れてもらえるかもしれないしね。


 「グルルルッ」


 「あらあら。すっかり気に入っちゃったのね」


 目的地に向かう道中で、ハーヴィーは鼻をスンスンさせて一つの屋台を見ながら喉を鳴らす。


 この街に来て初めて食べた串焼きをハーヴィーは気に入ったみたい。確かに美味しかったものね。せっかくだし、買っていきましょうか。


 「六本お願い出来る?」


 「はいよっ!」


 初めて来た時は怯えてて、これで二回目なのに、屋台のおじさんは私の注文に嬉しそうに串焼きを手渡してくる。


 この街の人は順応性が高いのかしら?


 「はい、ハーヴィー」


 「グルルルッ」


 美味しそうに食べるハーヴィーを見て、屋台のおじさんも嬉しそうにしてるわ。また、ハーヴィーのファンが一人増えたわね。


 「美味しかったわ。また来るわね」


 「まいどありー!」


 そんなこんなで目的地に到着。応対してくれたのはおばさんの娘さん。おばさん同様びっくりしてたけど、なんとか家具や荷物を渡して依頼書にサインをもらって依頼達成。


 これが一応私の初の依頼達成になるわね。


 「まあ、特に感慨深くもないのだけれど。アイテムボックスに入れて運んだだけだしね」


 そんな事を思いながら、冒険者ギルド戻ってる道中で。不快な視線をいくつか察知した。ハーヴィーも気付いてるみたいで、少し警戒しているわ。


 でも、いくらハイスペックなホムンクルスボディとはいえ、素人の私に察知されてるようじゃ、たかだか知れてるわね。


 どうせなら誘き出しましょうか。ずっとこの視線に晒されるのも不愉快だし。


 で、人通りの少ない場所へ歩く事少し。


 案の定、これぞチンピラですみたいな見た目の男が四人で私の前方と後方を塞ぐようにして現れた。


 「ここから先は通行止めだぜー」


 「そうそう。通りたけりゃ、通行料を払ってもらわねぇとなぁ!」


 「金がねぇならその体でも払ってもいいぞ!」


 「ぎゃははは!」


 ほあー。ちょっと感動しちゃったわ。ケムオといい、どうしてこの世界のテンプレ組は、ありふれた事しか言わないのかしら? ここまでくると、前世のラノベもあながち間違ってないって思えるわね。


 最早教科書よ。


 「ハーヴィーを見てそういう事を言えるって、よほど命知らずなのね」


 「はぁー? 街中で従魔が問題を起こしたら主人の責任だぜー?」


 「俺達ほ警備兵にも知り合いが居てなぁ。俺達が襲われたって言えば、お前はお終いって訳だ!」


 「だから大人しく捕まりな!」


 「こっちは傷付けるなって言われてんだ!」


 ちょっと知能が低すぎないかしら? なんで警備兵に言える前提なのかしらね。ここで殺されると思ってないのが不思議だわ。


 それにしても傷付けるなと言われてるって言葉が気になるわ。誰かの依頼で私を必要としてるみたい。


 早速馬鹿が釣れたって事かしら。丁度良いわね。ここで私が人を殺せるかの実験もしてしまいましょう。


 こんなクズを殺したところで、私の心が痛むとも思えないけれど。一応ね。

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