第2章 城塞都市エテナ
第9話 テンプレ
「あぁー。緊張したわー」
私が住んでた森から一番近くの街にやって来た。近くといっても、ハーヴィーの背中に乗って飛んで来ても三日掛かったのだけれど。
それに想像以上に大きい街でちょっとびっくりしたわ。警備兵? 衛兵の人は怖かったし、平静を装うのに苦労したわ。ハーヴィーが居なかったらどうなったてたことやら…。
「こんなのでは先が思いやられるわねぇ」
今は紹介された宿で一息ついてるところよ。前世での高級ホテルばりに綺麗で、お風呂までついてる。かなりのお値段がするけど、ハーヴィーも一緒に泊まれるところって考えると、ここぐらいしか無かったのよね。
他にも宿はあるけれど、それは厩舎にハーヴィーを置いておかないといけなかった。でも、この宿は一緒の部屋に泊まれるの。
「まあ、目的である目立つという事には成功したわね。面倒なのはさっさと処理させて貰いたいのだけれど…」
「グルルルッ」
ハーヴィーが撫でろとばかりに首を擦り寄せてくるので、撫でながらこれからこ事を考える。
ハーヴィーと容姿の事を考えると、どう考えても目立つのは必須。なら、とことん目立って、面倒事はさっさと処理しようと、敢えて大勢の前でアイテムボックスを使ったりして、馬鹿を釣り出そうと思った。
たくさんの人が私の事に注目したでしょうし、馬鹿ならすぐに引っ掛かるはず。それを返り討ちにしていったら、私に手を出すのは割りに合わないと諦めるでしょう。
「問題は私とハーヴィーがまだ対人戦を経験してない事よね」
「グルゥ?」
街に移動するまでの道中のほとんどをハーヴィーの背中の上で、空を飛んで移動したからか、物語の定番である盗賊に襲われたりという、胸熱イベントがなかった。
街が見えたら、アイテムボックスに入ってた不思議馬車に乗ったけど、街が見える範囲で盗賊稼業に勤しんでる馬鹿は流石に居なかったみたい。
「まあ、まともな神経をしてたらハーヴィーを見て襲おうとは思わないわよね」
見た目が怖いもの。接してみたらこんなに可愛い猫君なのにね。
「よしっ。気を取り直して冒険者ギルドに行って、身分証の登録をしましょうか」
「グルルルルッ」
まあ、なるようになるわ。元から頭が良い訳でもないんだし、あれこれ考えたって上手くいく訳ないもの。流れに身を任せて、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応していきましょう。
「ま、まいどあり…」
「あら、美味しい」
「グルルル」
宿を出て冒険者ギルドに向かう途中。屋台で売っていた串焼きを購入した。ハーヴィーが喉をゴロゴロさせて買え買えアピールしてくるもんだから、その勢いで買っちゃったわ。
店主のおじさん、ハーヴィーと私を見てかなりビビってたように見えたけど…。ハーヴィーは分かるけど、どうしても私もなのかしら? まあ、別に良いけれど。
思った以上に美味しい串焼きを食べながら、歩く事20分ほど。ようやく目的地に到着。
剣と盾を描いた看板が目印の冒険者ギルドだ。
「ハーヴィーはここで待っててね。流石に中には入れないだろうし。誰かがちょっかいをかけてきたら、食べても良いわよ」
冒険者ギルドまでの道中もやっぱり目立ったし、今も凄い注目を浴びている。敢えてその周りに聞こえるように、食べても良いと伝えると、一斉に離れて行った。
ハーヴィーは入口の横にゴロンと寝転がって毛繕いを始めた。私はそれを見て冒険者ギルドの中に入って行く。
「お、おい…。すげぇ良い女じゃねぇか」
「お前、ちょっと行ってこいよ」
「馬鹿野郎! 相手にされる訳ねぇだろ!」
入った瞬間、併設された酒場や受付からたくさんの視線を浴びる。なんだか、段々と注目されるのが気持ち良くなってきちゃったわね。これって、変態なのかしら?
「冒険者登録をお願い」
「は、はいっ!」
小動物みたいな可愛らしい受付嬢さんにお願いして冒険者の登録をお願いする。紙に名前と年齢を書くだけの、簡単な作業だったわ。ガバガバよねぇ。誰でも身分証を作れるじゃない。
「ジャスミンさんですね。では、このマジックアイテムに魔力を流して下さい」
私はそう言われて、水晶の様なマジックアイテムに魔力を流す。すると、その水晶から一枚のカードが出てきた。
出たわね、異世界あるあるのオーパーツ。魔力認識を云々と説明されて、犯罪の有無まで分かる意味の分からない代物。
聞けば昔にトリスメギストスという偉大な錬金術師が発明したとか。とても聞き覚えがある錬金術師ね。この身体を造った錬金術師も同じ名前なのだけれど。好き放題やってたという割には、役に立つものも作ってたのね。
因みに名前はジャスミンにしたわ。前世の名前が茉莉花だから。安直だけどね。分かりやすいし、良いでしょ。
「では、登録料に銀貨一枚頂きます。万が一このカードを無くされてしまうと、再発行料にも同じ金額を頂くのでご了承下さい」
渡されたカードには名前と年齢、そしてGランクと書かれていた。
「冒険者の事は詳しくご存知でしょうか? もしよろしければ、ここでご説明致しますが…」
「そうね。お願いしようかし…」
「へへへへっ。よぉ、姉ちゃん。冒険者の事なら俺が詳しく教えてやるぜぇ。手取り足取りよぉ」
私が受け付けの子にお願いしようとした時。後ろから酔っ払った男に声を掛けられた。
やっぱり来たわね。異世界で初めてのテンプレイベントよ。テンションが上がってきたわ。
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