第6話 理想のデビューの仕方
「解体なんて出来る訳ないのよね」
結界に覆われている小屋まで戻ってきた。小屋の前でさっきの熊さんを出して解体しようかと試みるも、指導も無しに出来る訳がない。
不思議と気持ち悪さみたいなのはないのよね。生き物を殺したのに罪悪感もないし。ホムンクルスボディになったおかげかしら?
まあ、助かるからなんでも良いわね。これで生き物を殺すのに忌避感があったら、この世界で生きていけないでしょう。
人間相手にはどうかしらね? 冒険者をやるつもりなら、いずれ盗賊と遭遇なんてのもあるでしょうし。私に人を殺せるかしら? 実際その場面になってみないと分からないわ。
「にゃー?」
「食べたいの?」
ハーヴィーが食べても良い? みたいな目で見てくる。別に食べるのは構わないのだけれど…。生で食べてお腹を壊したりしないのかしら? 魔物なら大丈夫かしらね?
「ちょっと待ってね。とりあえず皮を剥いでみるわ」
アイテムボックスからナイフを取り出す。これは恐らく解体用のモノだと思ってる。武器になりそうなモノはこの刃物しかアイテムボックスに入ってなかったのよね。
どれだけウロボロスを使わせてたかったのよ。
「皮を剥ぐなんて初体験だから不細工になると思うけど許してね?」
「にゃおん」
それから四苦八苦して3時間。なんとか全身の皮を剥ぐ事に成功した。途中、血抜きとかあったわよねと、血も抜いてみたけど、恐らくそれも不完全。とにかく不細工。皮にも肉がこびりついてるし。練習次第でどうにかなるものなのかしらね。
「はい、お食べ」
「にゃおーん!」
私の合図でハーヴィーがむしゃむしゃと、生肉に齧り付く。中々グロテスクな光景だけど、全然心が動かないわ。前世なら間違いなく吐いてたでしょうに。
「あら? それは?」
途中、ハーヴィーが石ころを咥えてやって来た。口周りは血で真っ赤になっている。後で拭いてあげないと。
「定番の魔石かしらね? ……これも食べるの?」
「にゃう」
紫色のピンポン玉より更に一回り小さい石。多分何かしらで色々用途があるんでしょう。ハーヴィーがこれも食べて良いか、聞いてきたのでとりあえずオッケーする。
今の所私に使い道がないしね。
「そういえば魔物は魔石を食べて成長するとか本に書いてあったわね…」
魔物は同族以外の魔物を襲って魔石を食べて成長する。それ以外に食料目的でもあるみたいだけれど。
「じゃあこれから魔物を狩れば、魔石はハーヴィーにあげた方が良いのかしらね。この子が強くなれば私も助かるし。もう良いの?」
「うにゃにゃ」
熊さんを三分の一ほど食べてハーヴィーは満足したらしい。子猫のハーヴィーが三分の一も食べたのは凄いわよね。一体どういう原理なのかしら?
けぷっと満足そうにゲップしているハーヴィーの口元を拭いてあげて、残りの熊さんの肉も回収する。またご飯の時にハーヴィーに出してあげたら良いでしょう。
「熊さんは冒険者のランク的にどれくらいの強さなのかしら? 流石に初心者レベルではないと思いたいわね」
小屋の中に戻って戦闘服だったマフィアみたいなスーツを脱いでシャワーを浴びる。この小屋には浴槽はないけど、シャワーはあるの。
水とお湯がでるシャワー型マジックアイテムね。形状が日本にあったのと似ているから、多分錬金術師が真似て作ったのだと思う。
寝巻きになっているネグリジェを着て、ベッドの上でハーヴィーを撫でながら考える。因みに寝巻きになりそうなのはネグリジェしかなかった。つくづく錬金術師の嗜好に左右されてると実感するわ。誰も見てないけど、未だに恥ずかしい。
「あの熊が中級者レベルなら、あれに完勝出来るレベルまでいけば、街に向かっても良いと思うのだけれど…」
「ゴロロロ」
どうせなら魔物図鑑とか、そういうのも用意しておいて欲しかったわね。鑑定出来るマジックアイテムとか。私しか居ないからどう判断すれば良いのか…。
もし、あの熊が初級者レベルなら、もっと訓練しないとだし、逆に上級者じゃないと相手に出来ないレベルなら、それはそれで問題よ。
街に行った時に常識の齟齬が出てしまう。最初は目立たず情報収集して擦り合わせていくつもりだけど、早い段階で目立つのは分かってるのよね。
なら、最初から目立って面倒事は早めに処理した方が良いんじゃないかって思うの。早くから力を見せておけば、その後馬鹿をやってくる人も減るでしょうし。
「やっぱりある程度強くなったと自分で思えるぐらいになるまでは、ここで訓練した方が良いかしらね」
正直苦労はしたくない。簡単にお手軽に無双させてもらいたい。現代から異世界に転移したい人なんてみんなそうでしょ? 誰だって楽に無双してチヤホヤされたいの。
街に行って苦戦するぐらいなら、ここで念入りに訓練しておきたいわ。こんな世界じゃ、一度の負けも女の身では許されないのよ。対人戦は特にね。
その点、ここなら誰にも見られないし、すぐに小屋まで逃げれる。まだ人の痕跡を見つけれてないから、あくまで多分なのだけれど。
妖艶でミステリアスなお姉さんポジションで、華々しく冒険者デビューを飾りたいわね。
誰もあの女の本気を知らない。みたいな。
「…………私も異世界に来て浮かれてるみたいね」
錬金術師の事をとやかく言えない思考をしてたわ。今のはだいぶ厨二思考が入ってたわよね。
でもそういうのに憧れるの。この世界なら私の事知ってる人も居ないでしょうし、多少恥ずかしくてもなんとかなりそうよ。
理想のデビューを果たす為に頑張らなくっちゃ。
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