第5話 初実戦
蛇腹剣とは。
刃の部分がワイヤー等で繋がれてて、等間隔に分裂し、鞭のように変化する機構を備えた、ロマンのあるネタ武器。
ゲームやアニメなんかで使われてるのは見るわね。現実にはない武器でしょうけど。こんなの使いにくいったらないわ。
「ワイヤーは魔力で繋がれてるのね。それに壊れないのも魅力的だわ。軽いと感じるのは私だけで、実際他人が持つと重くなる…と。ほんと良い武器だわ。蛇腹剣じゃなければ」
頭に叩き込まれた情報を口に出して咀嚼しつつ、ため息を吐く。なんで腐れ錬金術師はこう、ロマンに走るのかしら? 男がそういうのを好むのは知ってるし、理解も多少はあるつもりよ?
でもね。女型のホムンクルスを作っておいて、男のロマンを押し付けないでちょうだい。これから使う方が苦労するのよ。
なんだか、異世界に拉致してくれた恩がどんどん薄れていっちゃうわね。
「でも長剣状態での使い方や、蛇腹剣の使い方の情報を叩き込んでくれたのは助かったわ。これで訓練も少しはサマになるでしょう」
ランニングや柔軟以外にも訓練メニューが増えて良かったわ。この情報が合ってるのか分からないけど、我流でやるよりはマシだと思いたい。足の動かし方一つとっても勉強になる。
「伸縮させるかどうかは私の意思次第なのね。無駄に凄い技術だわ。その熱意を普通の武器にして注いで欲しかったところなのだけれど」
「にゃっふっしゅ!」
ハーヴィーは急に出てきた武器に興味深々なようで、ペシペシと猫パンチを繰り返している。可愛いわ。あなただけが癒しよ。
ある程度訓練したら魔物と戦ってみましょうか。現段階で私がどれだけ戦えるか気になるわ。
そして訓練を重ねて一か月。初心者レベルは脱却したと判断して、私はとうとう小屋の結界の外に赴いた。
「緊張するわね…」
森をそろりそろりと歩く事十分。気を張り詰め過ぎなのは分かってるけど、どうしても緊張してしまう。
日本ではどこにでもいるOLをしていたのよ? いきなりこんな森の中を堂々と探索なんて出来る訳がないわよね。
ハーヴィーも私の横をぽてぽてと歩いて付いて来てるわ。小屋で待ってるように言ったのだけれど、うにゃうにゃと抗議してくるので、可愛さに負けてしまった。
すぐに結界を張れる準備だけはしている。強度の実験も一応したけど、私の蛇腹剣…ウロボロスの攻撃を防げたからといって、魔物の攻撃を防げるかは分からない。
安全第一、命大事にを心掛けてゆっくり探索しようと思ってるわ。
「思った以上に気が滅入るわね」
「にゃにゃ!」
「っ!?」
ずっと警戒してるのは思った以上に精神的に疲れる。いつか慣れるのかしらと思いながらも警戒を続けてると、ハーヴィーが今までにない真剣な声を出す。相変わらず鳴き声は可愛いけれど。
ガサガサと草を掻き分ける音がして、出て来たのは全長2mは超えるであろう、四本腕の熊だった。
ちょっといきなりハード過ぎる相手じゃないかしら…? ここはゴブリンとか、スライムとかチュートリアルがあって然るべきでしょ。つくづく現実は甘くないと思い知らされるわね。
いきなりこんなハードモードはお呼びじゃないから、すぐにでも逃げたいところだったのだけれど、熊さんは逃がす気はないみたい。
流石に熊に背を向けて逃げ出すのは不味いと、森ビギナーの私でも分かる。死んだフリはオッケーなんだっけ? ちょっと覚えてないわ。
「やるわ。やるわよ。遅かれ早かれ通る道なのだから」
私は既に出していたウロボロスを構えて熊さんと向き合う。ハーヴィーもやる気満々だけれど、流石に体格差がありすぎるわ。
「グルァァァァア!!」
「はぁぁぁあっ!!」
雄叫びを上げて突進してきた熊さんに、私も声を張り上げて自分を奮い立たせるように対抗する。
が、訓練では上手く動けてたのに、思った以上に身体が動いてくれない。突進を避けて斬りつけるつもりだったのに、避けるだけで精一杯だった。
「訓練と実戦は違うのね」
頭は冷静でいるつもりだけど、身体はそうじゃなかったみたい。横を通り抜けて行く熊さんを間近で見たからか、心臓の音が聞こえてくる。ホムンクルスにも心臓はあるのよ。
「少しずつ慣れていくわよ」
幸い避けれない速度ではなかった。ハイスペックであろうホムンクルスボディのお陰もあって、攻撃は捌ける。
後はどのタイミングで反撃するかよ。
「にゃおーんっ!」
ハーヴィーが可愛らしい声を上げて、熊さんの首筋に噛みつく。しかし、皮膚が分厚いのか、ダメージになってない。鬱陶しそうに振り払われたが、ハーヴィーは綺麗に着地を決めていた。
「ハーヴィー、無茶しちゃダメよ」
「にゃにゃ!」
身軽に動けてはいるけど、ダメージソースにはなり得ていないわ。ゲームでの避けタンクみたいな役割ならなんとかこなせるかといったところね。
その後も熊さんは突進しては腕を振り回すを繰り返す。あんまり知能は高くないみたいね。ハーヴィーの方がよっぽど優秀だわ。
でもそのお陰もあって、魔物の殺意みたいなのには段々と慣れる事が出来た。少しずつ身体が動くようになって来て、避けて斬る。避けて斬るを繰り返す。
「はっ!」
「グルァァ…」
どれくらい時間が経ったか分からない。息もかなり上がっている。それでもチクチクと攻撃して、最後はふらついた熊さんの首筋に剣を突き立てた。
「はぁ、はぁ。勝った! 勝ったわ!」
「にゃおーん!!」
実戦初勝利。かなり時間は掛かったけど、勝ちは勝ちよ。
地球では得られない達成感があるわね。もっと余韻に浸りたいところだけれど、まずはここから離れて小屋に戻りましょう。
あ、蛇腹剣の機能も、
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