第4話 心装顕現
「さてと。大体の情報は分かったわね」
本に書かれている事は大体理解したわ。後は街で情報を集めたりして、常識を擦り合わせていけばいいでしょう。乱数の神様への媚びの売り方もそこで考えるわ。
アイテムボックスの中に資金も豊富にあるし、すぐにでも出発して街を目指すのもありだと思うのだけれど。
「んにゃにゃ」
ベッドの上でゴロゴロしてる子猫を見る。もしこの子が魔物でも、この世界には従魔師がいるらしく、街には問題なく入れるはず。従魔が問題を起こしたら主人の責任にはなるけどね。
だから、街を目指すのもありなのだけれど。
「問題はこの容姿よねぇ。問題になるのは目に見えてるわ」
さっきは考えるのが面倒になって、その場凌ぎでなんとかしようと考えてたけど、騒動になると分かってて放置しておくのもどうかと思うのよね。
自惚れとかじゃなくて、今の私は本気で美人だもの。世の男という男が放っておかないわ。
ここでよくある小説みたいに浮かれてさっさと街向かうのじゃなくて、ある程度修行的なのをしてから行った方が良いんじゃないかしら?
幸い食料とかはアイテムボックスにたんまり入ってるし、私と子猫ちゃんが暮らす分には問題ない。
「そうね。そうよね。冒険者ギルドなんかに行って絡まれるのがお約束だもの。不良冒険者をあしらえるぐらいの強さを身に付けて行った方が安心だわ」
むしろあしらえなかったらピンチよね。何されるか分かったもんじゃないわ。
「ゴロロロ」
「ふふっ。すっかり落ち着いちゃって。可愛いわね。名前は何にしようかしら。……ちょっと失礼して」
「んにゃ?」
「オスね」
子猫ちゃんを撫でてると、喉をゴロゴロ言わせて擦り寄ってくる。ポーションを使ってあげた事ですっかり懐かれちゃったわ。もううちの子にする気満々だから良いのだけれど。
名前を決める為にとりあえず性別の確認。どうやらオスだったみたい。子猫ちゃんじゃなくて君ね。この世界は去勢とかする必要ないわよね? 恐らく魔物なんでしょうし。
「ハーヴィーね。カッコいいでしょう?」
「んにゃ?」
「ふふっ。あなたの名前はハーヴィーよ。これからよろしくね?」
「にゃーお」
名付け完了。名実共に私の子よ。もう誰にも渡しません。親猫が出てきた時だけ、要相談という事にしましょう。
「よし。じゃあ修行しましょうか」
冒険者ギルド鮮烈デビュー計画の始まりよ。どうせ目立つ容姿をしてるのだから、とことん目立ってやりましょう。
好きな事をやりたいなら、やり通すだけの力が必要よ。同郷の錬金術師が総力を挙げて作ったホムンクルスボディの力を信じてるわ。
私がこの異世界ヴァーランにホムンクルスとして転生して数日が経った。相変わらず森の中の小屋で生活している。
修行するわよと息巻いて宣言したのは良いものの、私は武術などはやった事がない。一体何をすれば良いのかと、早速頓挫してしまった。
とりあえず午前中は結界の中でランニングと柔軟。午後は才能球からゲットした
「そういえば錬金術師がこのホムンクルスには固有の武器を用意してあるって、手紙に書いてたわ。魔法を使えないかもしれない衝撃ですっかり忘れてたわよ」
「んにゃお」
ほんの少し大きくなったような気がするハーヴィーを撫でつつ、アイテムボックスにしまった手紙を取り出す。
この固有武器を作るのが、魂を定着させる次に難しかった作業で、この技術を完成させる為に150年も使ったから、是非使って欲しいと切実に書かれている。
150年って…。寿命はどうなってるのかしら。もしかしてまだ生きてたらするのかしらね? でもそれなら私の前に姿を見せないのはおかしいわよね。自分の最高傑作を生で見ない訳ないでしょうし。
この錬金術師の足跡を辿ってみるのも面白いかもしれないわ。万が一生きてるなら一応お礼を言いたいし。
少し恥ずかしいけれど、せっかく用意してくれたのだし、使わないと勿体ないわよね。
「心装顕現・ウロボロス」
私が呪文を呟くと、胸の辺りが軽く光って、出てきたのは黒色の鞘に入った一本の長剣。
「ファンタジーだわ…」
この数日で結界の練習をして思ってたし、アイテムボックスを使う時にも思ってた事ではあるけど、呟くだけで武器が出てくるって凄いわよね。
「重くないわね。むしろ、軽すぎるわ。武器として成り立ってるのかしら?」
とりあえず鞘から剣は抜かずに片手で剣を持ってみるけど軽すぎる。この数日でこのホムンクルスボディの力は結構なモノだと理解したけど、それにしたって軽すぎると感じてしまう。
「それにあの錬金術師が作ったには普通すぎるのよね。用意された服があんなふざけたのばかりだったのに、武器は普通って違和感しかないのだけれど。武器は命に直結するから、ちゃんと汎用性の高い武器を作りましたって事かしらね?」
鞘から剣を抜くと刀身も真っ黒。厨二病の子が作ったカッコいい武器って感じだわ。
「え、急に頭に情報が…。ちょ、ちょっと」
鞘から剣を抜くと頭にこの武器の情報を叩き込まれた。ご丁寧に使い方や訓練方法まで一緒に。無駄にファンタジーしてるわと思ったけど、それ以上に大事な事がある。
「クソ錬金術師めぇ…。やっぱり武器にもロマンを詰め込んでるじゃない。こんなイロモノ武器を使えって言うの?」
これ、蛇腹剣じゃない。
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