第3話 才能


 「ポーションって飲ませるのかしら? それともかけるの? 両方やればいいわね」


 子猫を小屋の中に連れて来て、アイテムボックスからタオルとポーションを出して優しく包む。


 ポーションの蓋を開けて、子猫の口元に持っていき少しずつ飲ませていく。子猫は警戒もせずに澄んだ青色をした液体をゴクゴクと飲み始めた。


 少し警戒心がなさすぎじゃないかしら? 野生で暮らしてたとは思えないわね。それほど切羽詰まってたって事かしらね。


 「わぁ…ファンタジー…」


 傷だらけだった子猫の体がどんどん治っていく。これなら体にかける必要はなさそうだ。


 「ん? 背中にあるのは…」


 治ったかチェックをする為に、全身を確認してみると、背中にしこりのようなモノがある。これはポーションで治らないのかなと思ったけれど、子猫は少し元気になったようで、私の指をぺろぺろと舐めてるわ。


 「可愛いわぁ。もうあなたはうちの子よ」


 「にゃーお」


 「傷は治ったけど、体力はそうじゃないでしょう。ちょっと待ってね」


 アイテムボックスに入っていた、ミルクと干し肉をお皿に入れて置いておく。魔物が何を食べるのか知らないけれど、多分これで大丈夫でしょ。


 「さて。私はこれね」


 ミルクをぺろぺろ舐めながら、干し肉を美味しそうに食べてる子猫を見ながら、ベッドに座って本を読む。どこに行くにしても最低限の知識は欲しいから、しっかりと学ばなくちゃ。




 「そ、そんな…」


 本を読む事数時間。

 一通りの事は分かったと思う。

 大体想像通りの異世界で、お決まりの中世ヨーロッパぐらいの舞台に、冒険者ギルドや商業ギルドがあったりして、どこの物語にでも出てくるような感じだった。しかし。


 「ま、魔法が使えないの…?」


 なんの為の異世界なのよ。異世界=魔法でしょ。SFの世界ならまだしも、ちゃんとそれっぽい世界に来てるのよ?


 いえ、使えない訳じゃないのよ。使える人はかなり限定されてるってだけで…。それも貴族が魔法の使い方を独占してるとかなら、まだなんとかなったかもしれないけれど、運次第なのよねぇ。


 この世界は5歳になると、才能ギフトというものを授かる。教会が洗礼の儀で、才能球という小さい水晶球を無償でくれるみたいなのだけれど、そこで運が良ければ才能をゲット。


 才能の種類はたくさんあって、『剣術』だったり、『鍛治』だったり、そして『火魔法』だとかの魔法だったり。才能がなくても出来ない事はないけど、才能があった方が圧倒的にその分野で大成しやすいみたい。


 才能を授からなくても、歴史に名を残した人はたくさんいるみたい。でも、魔法だけは才能無しでは使う事が出来ない。


 色々研究はされてるみたいだけど、この本には使えないと書かれてあるわ。


 「運…。運ってなんなのよ…。魔法…」


 アイテムボックスを確認すると、才能球が五つ入っていた。才能球は五歳になったら教会から無償で貰えるけど、それ以降は自分でダンジョンからのドロップをさせるしかない。


 しかも二回目以降は才能ギフトを得られる確率が万分の一とも億分の一とも言われている。世界的に才能ギフトを複数持ってる人達はかなり希少みたい。


 二個目の才能を得られる確率が物凄く低いのもあって、ダンジョンでドロップした才能球は教会が結構高値買い取っているみたい。貴族やお金持ちは冒険者に依頼して、更に高値で買い取ったりもしてるみたいだけどね。


 才能ギフト複数持ちはマウントを取れそうだし。いかにも貴族やお金持ちが好きそうな事だわ。


 「せっかく異世界に来たのだから、魔法は使いたいわ。錬金術師は五個の才能球を用意してくれてるけど、二回目以降に能力ギフトを授かる自信なんてないもの」


 私はアイテムボックスから一つの才能球を出してぶつぶつと呟く。これに異世界をエンジョイ出来るかかかってるのよ。


 錬金術師も自分の全てを詰め込んだホムンクルスを作ったのなら、才能の付与ぐらいしときなさいよねと愚痴を吐きそうになったが、一応退屈な世界から、異世界に連れて来てくれた恩があるので、グッと堪える。


 まあ、実際に魂を掻っ攫っただけだし、実はこのホムンクルスには一つ才能みたいなのがあるんだけどね。私はこの時忘れていた。


 「ええいままよ!」


 才能球をギュッと握り潰す。

 急に大きな声を出した私に子猫はびっくりしてたけど、今は構ってる暇はない。


 「守護神アテナ?」


 脳内アナウンスに流れてきたのは、守護神アテナという才能ギフトを授かったという事だけ。


 「どうして地球の神様の名前が才能ギフトの名前になってるのかはさておいて。能力は…結界?」


 結界…結界…。うーん…。魔法と言えば魔法よね。作品によっては結界魔法とかがあるもの。ギリギリセーフかしら。とりあえず試してみましょう。


 私は手を前に出して結界でろーって念じる。声に出さなくても使えるのは本能的に分かった。体から何かが少し抜け落ちる感覚があって、その後すぐに透明な板のようなモノが出てきた。


 「透明なのに見えるのね。猫ちゃん、これが見えるかしら?」


 「にゃ?」


 ツンツンと指で突いてみると、しっかりと存在しているのが分かる。ミルクと干し肉を食べて満足げにしていた子猫に、ダメ元で聞いてみたけれど、首を傾げただけ。


 「私にしか見えないのかしら? それは使い勝手が良さそうね」


 結界を出し続けてると、体から継続的に何かが抜け落ちていくのが分かる。恐らくこれが魔力なんでしょう。


 この世界の住人は誰しもが魔力を持っている。才能ギフトで魔法系を授からなければ意味がないと言われればそうでもない。


 この世界にはマジックアイテムがあるから。マジックアイテムを使うには魔力が必要だから、無駄という訳ではないみたいなのよ。


 「はぁ。魔法らしいのは使えたけど、やっぱり火魔法とか水魔法に憧れるわよね」


 ハズレではないから文句は言えないのだけれど、少し残念に思う。この世界に魔術はないのかしら? 魔法陣を作ってそれに魔力を流すと、魔法が発動するみたいな。


 マジックアイテムと同じ要領で出来るんじゃないかと思うのだけれど。生活が落ち着いたらそういう研究をしてみるのも楽しそうね。


 「でもどうしてアテナで守護神なのかしら? あまり詳しくないけど、そういう神様だったかしら? 戦いの神とかだったような気がするのだけれど」


 地球で知ってる神様の名前が才能ギフトの名前になってるのも気になるわね。他にもあったりするのかしら?


 それに結界だけが能力なら、シンプルに『結界』って才能ギフト名でも良かった気がするのだけれど。何が違うのか、いつか調べてみたいわ。


 残りの才能球はどうしましょうか。使うタイミングも重要だと思うのよ。この世界の乱数の神様のご機嫌伺いをしないとね。

 


 

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