第2話 現状把握


 酔っ払って寝て起きたら異世界に来てホムンクルスになっていた。これが現状で理解出来た事ね。


 「なんでこうなったのかしら…」


 確かに異世界に行ってみたいとは思ってたわ。でも、私が読んだ作品の大体は殺し殺されが普通で、温室育ちの現代日本人がすぐに適応出来るような世界じゃない。


 この私の体になったホムンクルスは、そこらの異世界人よりスペックが高い体になってるみたいだけど、中身がただのOLじゃ意味がないのよ。せめて霊長類最強の女性レベルを連れて来ないと。


 「それにこの容姿。美人でスタイル抜群になったのは嬉しいけど、絶対騒動の種になるじゃない」


 異世界人の容姿のスタンダードがこれぐらいなら良いのだけれど、頭のおかしい錬金術師が自分の技術を詰め込んで作った最高傑作だと言ってるのよ? 容姿で手を抜くなんてしないでしょ。


 美しい容姿にしてくれたのは感謝してるけど、現代より治安が悪いであろう異世界では不安しかない。もしかしたら現代より進んだ文明で、治安が物凄く良い世界なのかもしれないけど。


 「あーなんかもうどうでも良くなってきたわね」


 色々考えるのが馬鹿らしくなってきたわ。頭を空っぽにして、異世界を楽しむ方が良いのかしら。死んだらそれまでよね。現代でも死んだみたいだし、人生のボーナスステージだと思いましょう。


 「と、なると…」


 手紙には別の部屋に異世界で暮らしていくのに必要なモノはある程度用意してあると書いていた。流石に魂をパクってはい終わりって放置するほどの人でなしではなかったみたい。


 「とりあえず服よ。話はそれからね」





 「な、なんなのよこれは…」


 別室にも手紙が用意されていた。そこには指輪型のアイテムボックスが置いてあり、その中に必要なモノは全て入ってると手紙には記されていた。


 指輪を装着すると、脳内アナウンスの様に所有者の変更がされましたと言われて、私の専用のマジックアイテムになったみたい。


 中に入ってるモノも頭の中にリストとして出て来て、異世界って凄いと少し興奮したのも束の間。錬金術師が作ったのであろうたくさんのマジックアイテムが収納されてるのにも驚いたけど、問題は私の為に用意されている服だ。


 メイド服、ナース服、ミニスカポリス、バニー、チャイナ服、扇状的なドレス、ビキニアーマーと、その他もほとんどまともなモノがない。この錬金術師を殺してやりたいと思ったわね。普通の服を用意しなさいよ。趣味に走りすぎだわ。コスプレじゃないのよ。


 「これならなんとか…」


 私が手にしたのは真っ黒なスーツみたいな服。会社勤めの人が着るようなスーツじゃなくて、女マフィアが着ていそうなスーツだけれど。ご丁寧にファーが付いたロングコートまで用意されている。


 他の服よりこれの方が幾分かマシだった。


 「これを錬金術師が楽しそうに作ってるのを想像したら気持ち悪いわね…」


 下着もしっかり用意されていて、どれもこれもが際どいのになっている。ムカつくのは着心地が良すぎる事ね。一度体験したら手放そうと思わないのが癪に触るわ。Tバックなんて履くのは初めてなのだけれど。


 「これもマジックアイテムになってるのね…。技術の無駄遣いじゃないかしら」


 用意されてる下着や服は全て何かしらの効果が付与されていた。『サイズ自動調整』『温度調整』『防汚』。これはどの服にもデフォルトで付いてたわ。


 他は服によって違うけど、私が選んだスーツは各種耐性が付いてるみたい。この世界の技術レベルがどれほどなのか分からないけど、多分凄いアイテムよね。服の名前が『ドラゴンスーツ』だもの。ドラゴンの素材が使われてるに違いないわ。


 「後はこの世界の事が書かれてる本…」


 手紙の横に置かれていたのは一冊の本。

 異世界ヴァーランについての基本情報が記されているみたいね。文字も日本語じゃないのに読めるわ。書けるかどうかは後で試しましょう。


 「先に外に出てみましょうか。この小屋? 家には結界が張ってあるから、魔物は寄ってこないみたいだけど、どうなってるのか気になるわ」


 今更私の体を作った錬金術師を疑う訳じゃないけど、外がどうなってるのか知っておかないと、ゆっくり本を読めないわ。



 「森の中ね」


 この小屋周辺だけが何もない広場の様になってるけど、周りは木木木。見渡す限り木。不思議と結界の範囲が分かる。小屋自体がマジックアイテムになってるみたいね。


 「とりあえず周りに魔物はいなさそうだから安心……あら?」


 結界がしっかり作用してるみたいだし、戻って本を読もうかと思ったのだけれど、結界の端に小さい影が見えた。結構な範囲で張られてる結界だけど、ホムンクルスになって視力も良くなったのか、かなり遠くまで見えるわね。


 「何かしら? 魔物?」


 結界内には入ってないみたいだけど、すぐ側にいるみたい。少し気になって見に行くと、怪我をした小さい黒猫が苦しそうに倒れていた。


 「えぇ…魔物よね…」


 助けてあげようかと思ったけど、魔物なのではと思い留まる。私は異世界ビギナーなのよね。小さい魔物だろうが、襲われたら簡単に殺されてしまうだろう。現代でも猫は人を殺せると言われてるし…。


 可哀想だけど、自分の命の方が大事だわと心を鬼にして立ち去ろうとしたのだけど、目が合ってしまった。不思議と敵意はなさそうに見えて、心の鬼が天使に変わる。私、猫が好きなのよ。


 「アイテムボックスの中にポーションはあったわよね…」


 あっさりと方針転換した私は、さっきビビってたのはなんだったのかと言われるぐらいに、無警戒に黒猫をゆっくりと抱き上げる。


 これが私と永遠の相棒になるハーヴィーとの出会いだった。


 

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