第1話 転生


 「はぁ。疲れたわ」


 今日も今日とて終電ギリギリまで残業。

 高校を卒業して勤めた会社は大外れだとすぐに分かった。残業代はほとんど出ないのに毎日残業。


 休日出勤も当たり前のようにある。上の人間は定時でさっさと帰るが、それは下っ端の私達に自分の仕事を押し付けてるからだ。ほんと嫌になっちゃうわね。


 転職したいのに、転職先を見つける時間がない。貯金は使う暇がなくて貯まってるし、思い切って辞めてから仕事を探そうかしら。


 「あぁー美味しい。これがなかったら私は生きていけないわ」


 日付が変わった頃に帰宅。コンビニで買ってきたストロングなお酒をゴクゴク飲んで、独り言を呟く。


 一人暮らしをして、今の会社に勤めるようになってから、一気に独り言が増えたわ。ストレスが溜まってるんでしょうね。明日は貴重な休み。このまま酔い潰れるまで飲み倒そうと思う。


 「現実逃避にはこれが一番よね」


 会社の同僚に勧められた無料作品投稿サイト。色んな作品があって、いつかこんな世界に行けたらなんて、妄想が捗るわ。


 その中でも憧れたのは冒険者。

 働きたい時に働いて、お酒を飲みたい時に飲む。全て自己責任だけど、こんな都合の良い職業はないわ。


 「まあ、私なんかが異世界に行ってもすぐに殺されるのがオチね」


 物語は物語だから良い。実際自分がそんな立場になったら、まともに生きていけないだろう。都合良くチート能力が貰えるならまだしも。


 「あー虚しくなってきたわね」


 私は荒んだ心に喝を入れるように、お酒を浴びるように飲んだ。気付けばロング缶をいくつも空けていて、机の上で突っ伏す様に眠りについた。






 「ん…んぅ…」


 いつの間にか寝てたみたい。化粧も落とさず寝ちゃったわなんて考えながら、目を擦って起き上がる。


 「あら? 私、いつの間にベッドに…」


 そこでようやく気が付いた。ここが私の部屋じゃない事に。何も服を着ていない事に。


 「飲み過ぎたわね。明晰夢ってやつかしら? ……痛いわ」


 夢なのかと自分の腕の皮膚を引っ張る。しっかり痛みを感じて、首を傾げる。


 「どういう事かしら? 拉致? しがないOLを? あらやだ、肌がスベスベだわ」


 引っ張った腕の皮膚を撫でながら、拉致されたのかと焦りかけたのだけれど、そんなのがどうでも良くなるぐらい肌がスベスベだった。


 学生時代は頑張ってケアしていたけど、就職してからはそんな暇がなくて。最低限のケアしか出来てなかったのに、びっくりするぐらいスベスベで。まるで作り物の皮膚みたいな感じがした。


 「私の胸ってこんなに大きくないんだけれど…」


 肌の事が気になりだすと、全身の事も気になってくる。裸の状態で自分の体を調べてみると、何故か胸が大きくなっていた。


 私の胸は平均サイズだ。平均だったら平均だ。起伏に乏しかろうが、私が平均だって言ったら平均なのだ。


 少し、ほんの少しだけ気にしてたんだけど、今の私にはしっかりと谷間がある。大きすぎる訳じゃなくて、これぞ美乳と言っても過言ではない素晴らしい造形をしている。


 「あなたは誰かしら?」


 部屋を見渡すと全身を映せる鏡があったのでその前に行くと、いつもの隈が出来た私の顔じゃなくて。思わず鏡に問いかけてしまう程の美人が映っていた。


 ボサボサの黒髪が銀髪に。

 出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる素晴らしいプロポーション。身長は170cmを超えてるんじゃないかしら? いや、ほんと誰なのよ。


 「でも悪くないわね。女の理想を詰め込んだ様な体をしてるわ」


 これが自分なのか未だに信じられないが、こんな美人に見えるのは素直に嬉しい。


 「確認するならあれよね」


 鏡を探す為に部屋を見渡した時に、見つけた一つの机。そこには手紙が置かれていて、この状況を理解するにはうってつけに思えた。


 勝手に見て良いのかと、少しだけ考えたけど、本当に少しだけ。手紙を手に取ってベッドの上に座る。流石に全裸で椅子に座りたくはない。


 服を着たらいい話なんだけど、どこにも見当たらないのだ。これからどうするにも困りそうである。


 「これは…えぇ…? うーん…どうしてそうなるのかしら…」


 手紙はかなりのボリュームだった。掻い摘んで要約すると、この体はホムンクルス? 人造人間? らしい。製作者が自分の技術全てを詰め込んで作った最高傑作だと、自慢話のように書かれてある。


 その製作者は、現代日本からいつの間にかこの世界に転生したオタクみたいで、村人として転生し当初は困惑したものの、異世界転生万歳とこの世界を楽しみ尽くしたらしい。


 錬金術の能力を授かり、世の為、人の為に活動してた訳じゃなく、あくまで自分が楽しむ為に能力を使っていたみたいだ。


 それでも資金調達の為に偶に世に出したマジックアイテムが、凄過ぎてそこそこ有名人なんだと、自慢するように手紙に書かれていた。


 「ここ、異世界なのね」


 まだ酔っ払ってるんじゃないかしらと、自分でも信じられない。現在進行形で摩訶不思議な体験をしてるけど、急に言われてもね…。



 で、この転移した錬金術師にはどうしても夢があった。それはホムンクルスの作成。異世界で過ごした自分の全てを詰め込んだ最高傑作を作りたかったみたいなのだ。


 「それが私って事ね」


 錬金術師はガワを作る事には成功したが、どうしても魂の定着が上手い事いかなかった。そこで地球から、魂をパクってみようと思った訳だ。


 地球から転生した自分が作った作品だから、魂の波長が云々と専門用語たくさんで書かれているけど、私には理解出来ない。


 とにかくどうやら、この世界の人間の魂じゃダメだったって訳だ。術式云々の話もよく分からないけど、それが成功して私がここに居るって訳ね。


 「死んだ魂を使うって書いてあるのだけど。私は死んだのかしら?」


 死因は? 急アル? ちょっと恥ずかしいわね。


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 主人公の見た目はブラックラグー◯のバラライ◯を想像してください。それが銀髪になった感じ。作者あのキャラが大好きです。

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