【第3部】 第1章  日本を学ぼう。

第161話 ラブリンパワー(sideG)


 やあ皆。久しぶり。

 フランスの暗殺者アサシン、マルセルだよ。

 自分で言うのも何だが、今日も黒のトレンチコートが似合ってるだろう?


(ふむ、まだ十四時か)


 オレは今、駅前のメイド喫茶に来ている。

 何でかって?

 日本という国を知るためさ。


「……メイド喫茶の【冥土喫茶】か」


 なかなかシャレてるじゃないかと思いつつ、オレは中に入った。


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


 すぐさまメイド服を着た女性が出迎えてくれた。

 日本人は本当にパッと見で年齢が分からんな……。


 十代にも見えるが……。

 こういうお店で働いている関係上、二十歳くらいだろうか?


「長旅お疲れ様です、ご主人様♪」


 出迎えてくれた女性は、『マリア』と書かれた名札を左胸に着けている。

 マリアさん、と呼べば良いのかな?


「ああ、ありがとうマリアさん」


 オレが言うと、マリアさんはニッコリと微笑んだ。


「ええと、マリアさん、サービスを受けたいのだが」


「かしこまりました! ありがたいことに、現在大変込み合っておりまして……」


 申し訳なさそうに言いつつ、マリアさんは店内の方に視線をやった。それを辿ってみると、お店がほぼ満席になっているのが分かった。

 今、ゴールデンウィーク中だしな……。


「対応できるメイドさんが限られているのですが、よろしいでしょうか?」


 キュルルン! とマリアさんは両拳を口に着けた。

 ……い、今のは何だ?


 ま、まさか……。

 オレが暗殺者であることを、店内に知らせるためのサイン……?


 つまり、もうオレの素性がバレたっていうのか?


 か、考えすぎか……?


 いやでも『例の高校』では、オレが潜伏していることがすぐバレたワケだし……。

 警戒は怠らないようにしよう……。


「あ、ああ。問題ないよ」


 オレは精一杯の笑みで答えた。


「ありがとうございます! 流石はフランスのご主人様、紳士ですね!」


 え、何でオレがフランス出身って分かったの?


「あ、あのー。何でオレがフランスから来たと?」


「はわわ~。そんなの宇宙の波動を受け取ればワケないですよ~」


 宇宙の波動?


「そんなことも忘れちゃったんですか~? ご主人様ったら~」


「あ、ええと、そうだったそうだった。そうだよね~、ウッカリ受信しちゃうよね~、日本では当然のことだよね~」


 すると、マリアさんはスン……と真面目な表情になった。


「あの、ご主人様? 今のは冗談ですよ? 日本でも何処の国でも宇宙の波動なんてもの受信できませんよ?」


 マジかよ。

 ヤベーよ知ったかして合わせちゃったよ。

 超恥ずかしいんだけど。


「ご主人様? アタマ大丈夫ですか?」


 急にマトモな接客しないでくんない。

 知ったかして無理に合わせたこっちが恥ずいから。

 え、だとしたら何でオレの出身国が分かったの?


「あ、あの~。ところで何でオレがフランスから来たと?」


 オレがヒソヒソ声で問うと、


「それはラブリンパワーで分かったんですよ~」


 ラブリンパワーだって?

 聞いたことねーぞ。


 こ、今度こそ本当のことか?

 日本じゃラブリンパワーとかいうやつがあるのか?


 わ、分からん……このマリアさんが本当のこと言ってんのか冗談言ってんのか分からんんんんんんんんんんん。

 ラスベガスで会ったポーカーフェイスの達人より読めねーんだけど。


「あ、あの~。オレ、実は日本に疎くて……。ラブリンパワーって本当にあるんですかね~?」


「本当ですよ~。ご主人様ったら、もう私のこと忘れちゃったんですか~?」


 いや忘れたも何も初対面……。

 あ、そうかここメイド喫茶か。


 家に帰ってきてメイドさんが出迎えてくれるっていうコンセプトの喫茶店だっけ。

 だから初対面じゃなくて、久しぶりに会ったっていう設定になってんのね。


「あーゴメンゴメン。すっかり忘れてたよ」


「ご主人様ってば~」


 も~、とマリアさんは一瞬だけ頬を膨らませた。

 ど、どうやら日本にはラブリンパワーってやつがあるらしい。


 知っておいて良かった……。


 また今度、アイツを暗殺しに行くまでに、もっと日本のことを知らないとな……。

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