第158話 二重の攻防


「では占い師さん、今度は私の彼氏(笑)の名前を当ててみてください」


 ちょっと止めてくんない。俺そういうノリ苦手だから。

 てかその『(笑)』は何なの?


城ヶ崎じょうがさきくん」トアリは俺に耳打ちして、「上手にヒントを出すんですよ(笑)」


 嫌だよめんどくせーって。


「おほほ。その男子の名前とかすぐ分かりましたわ」


 ……なんかもう読めてきたんだけど。

 アレだろ。素朴とかこじつけて名前にするんだろ。

 オマエの魂胆なんて見え見えだっつの。


「ズバリ、城ヶ崎俊介しゅんすけ、ですわね」


 当てるんかいいいぃ。

 何でだよ。明らかに素朴を絡める流れだったよね?

 それに俺がツッコむ流れだったよね?

 何で一発で当てちゃってんだよ。

 ここぞという場面で占い師としての能力開花した?


「良く私の彼氏(笑)、城ヶ崎くんの名前が分かりましたね」


 さっきから付けてるその『(笑)』は何なの? もしかしてバカにしてる?


「おほほ。宇宙の波動を受け取ればワケないですわ(やべっ、テキトーに言ったら当たっちゃいましたわ)」


 括弧内に本音ダダ漏れしてんぞ。つーかマグレだとしても俺の名前当てるの凄くね? 才能だけはあるんじゃないのこの占い師。


「凄いですね占い師って(城ヶ崎くんって、素朴な顔立ちにそぐわない名前ですよね)」


「おほほ。これも師匠のお陰ですわ(なんか素朴だから、逆にカッコイイ名前言えば当たるんじゃないかと思って言ったら当たってしまいましたわ)」


「へえ、師匠が居るんですね、どんな人なんですか?(にしても城ヶ崎なんて、贅沢な名前を授かってますよね~)」


「お師匠さんはプロマジシャンですわ(同意ですわ。トアリちゃんの彼氏、名前と恋人には本当に恵まれてますね)」


「プロのマジシャンなんですね!(ああそれは本当にそう思います。彼のような人がカッコイイ名前を授かり、私という美少女と付き合えてるなんて)」


 普通に喋れええええええええええええええええええええええええええ!


 なんで括弧内使って二重に会話してんだコイツらあああぁ?

 なにその無駄に高度な会話?

 ややこしいから分けて話せよ。

 てか括弧内の会話俺のことディスってるだけじゃねーか。


「今日は良い天気ですわね(トアリちゃんの彼氏、どう?)」


「そうですね、晴れて良かったです(うーん、さいきんちょっとツッコミにキレが無くなってきたかな?)」


 やかましいわ。

 てかいい加減にしろっての。オマエら括弧内の会話に集中しすぎて外の会話が単調になってんぞ。


「五月にしては気温が高いですわね(へ~。ねえねえ、ワタクシの彼氏、さいきんちょっと冷たくて)」


「もう最近は春という季節が夏になってますよね(どう冷たいんですか?)」


「夏、夏、冬、冬って感じですわよね(なかなか画面の中から出てきてくれなくて)」


 それ完全に二次元の彼氏だよね。冷たい(物理)だよね。


「私は冬の方が好きかなあ(解決方法がありますよ)」


「ワタクシは夏の方が好きですわ(本当ですの?)」


「冬は虫とかが大人しくなりますし(VRゴーグルを使うのはどうでしょう?)」


「ワタクシは虫さんたちが元気にしてるところを見るのが好きですわ(なるほど、ありがとう! 解決しましたわ!)」


 何? さっきから何なの? 何を見せられてんのマジで。


「ありがとうございました」占い師は深く一礼して、「ワタクシの悩みは解決しましたわ」


 なんで占う側が悩み解決されてんの。


「ふっふっふ」トアリは満足げに笑った。「宇宙の波動を受け取ればワケないですよ」


 勝手に波動を継承してんじゃねーよ。


「では今日はこれで」


 トアリはスッと立ち上がると、颯爽と部屋を出ていった。


(え、えええええええええええええええ?)


 一ミリも占ってもらうことなく出ていきやがったあぁ。

 占いの館なのにいいぃ?


(やれやれ……)


 俺も続いて出ていこうとした、その時、


「城ヶ崎さん、ちょっと良いですか?」


 占い師が、俺を引き留めてきたのだった。

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