第156話 ババ抜き最弱の二人
トアリ、活動限界まで残り約三十分。
文房具屋を出て、俺はトアリを背中に着けた、例の奇妙なフォーメーションで駅前に戻っていた。
その途中、
「おっと
トアリが指さした先には雑居ビルが。いや、『占いの館』と書かれた看板を指している。
「……こーいうのって高いんじゃね?」
「良く見て下さいよ」トアリは俺の背中から離脱。「ほら、学生さん初回無料ってありますよ」
ホントだ、看板の下に小さく書かれている……。
「うーん、なんか怪しくねーかここ?」
宇宙の波動を受け取って占います! というPOPが貼られている。
雑居ビルの地下二階にあるらしい。
「良いじゃないですかタダなんですし」
「そーいうとこって、タダで人を釣って変な商品売りつけてくるんじゃねーの?」
「大丈夫ですよ城ヶ崎くん。私は変な商品を買うほど単純ではありません」
……いや単純だから心配してんだけど。
課外授業で、京都が浄化された地域だって思いこんでフルアーマー状態を解いたり……。何でも願いが叶うって神社見て真っ先に喜んだり……。
超が付くほど単純だよね。
大丈夫? 変な商品勧められて買ったりしない?
「トアリが何も買わないって約束してくれるんなら入るけど……」
「ふっふっふっ。余裕ですよ。そのへんの単純バカと一緒にしないでください」
自覚無しかて。まあ、大丈夫なら入るけど。
俺たちは薄暗い階段を下って、地下二階へ。
『チーッス☆ 宇宙の波動を受け取りし館でえす☆』
入口の扉にはそう書かれた白いプレートが……。
…………。
いくらなんでも怪し過ぎだろ。
怪しさを隠そうとしてないところが逆に怪しさを増幅させてんだけど。
「ほう、宇宙の波動を受け取りし館だから、星マークを付けているのですね」
いやそこまで深く考えてないと思うよ。
「なかなかシャレてるじゃないですか。先手を取られました。私の活動限界が十分間縮まりましたよ」
なんで汚染とはカンケーない理由で活動限界近づくんだよ。
……さては怪しい雰囲気を読み取って早く帰りたくなったな?
でも自分で入りたいって言ったから引くに引けなくなってんだろ。
分かりやすっ。
「では入りましょう。城ヶ崎くん、先導してください」
やれやれと、俺は扉を開いた。
中は薄暗かった。絨毯のような赤い布が被された丸テーブル。その両サイドで、天井から吊るされたキャンドルライトが二つ灯っている。
灯りはその二つしかないため、部屋がボンヤリとしている。
「ようこそ」
と、俺たちが入った瞬間に何者かが言った。
女性だった。テーブルの向かい側に座っている。紫色のベールを被っていて、同色のローブを羽織っている。
俺と目が合うと……その女性占い師は、口紅で真っ赤に染まった口元を、僅かに緩めたのだった。
「お二人とも、どうぞ、向かいに」
占い師(見た感じ二十代前半くらい?)は、向かいの椅子に手を添えた。
俺たちは一度顔を見合わせてから、
「失礼します」
と声を揃えて占い師の向かいに座った。
(怪しいよこれ……)
見た目であからさまに『占い師』って感じ出してるから余計に怪しいんだけど。
『二人が来るのは分かってた』とか、『俺とトアリが恋人同士』だとか言い出したら黒だな。
……いや、流石にそんな誰もが考えられるようなベタなことは言わないか……。
「お二人がここに来ることは知っていました」
と、占い師はスラスラと言ったのだった。
(え、えええええええええええええええええええええ?)
初手から誰もが予想できること言ったんだけどこの占い師いいいぃ。
スゲー自信満々に言ったんだけど。
分かりやすっ。分かりやすく真っ黒じゃねーか。
トアリ並みかそれ以上の分かりやすさなんだけど。
ババ抜きしたらゼッテー勝つ自信あるわコイツになら。
「そう。あなたたちカップルがここに惹かれて来るのは運命なのです」
しかも俺たちのこと恋人同士とか言っちゃってるし。
早くも数え役満なんですが。
「ほほう」トアリは口を開いた。「良く分かりましたね、私たちが恋人同士だということに(笑)」
笑っちゃってんじゃねーか。
インチキ占い師オモチャにしようとしてんだろオマエ。
「ところで占い師さん。学生初回無料ってホントなんですか?」
トアリの問いに、占い師は静かに頷いた。
「安心しました。これで心置きなく相談できそうです(笑)」
もう完全に遊びつくそうとしてるよね、無料で遊べるオモチャ見つけたって顔してるよね。
オマエもオマエで分かりやすっ。
ヤベーよ分かりやすい奴同士の戦いが始まりそうなんだけど。
どう着地すんのこれ?
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