第154話 冥土喫茶編再突入を阻止した世界線


 トアリを背中に着けたフォーメーションのまま進み……。

 俺たちは駅構内にある、本屋に隣接する文房具屋に辿りついた。


「ミッションコンプリート」トアリは俺の背中から離脱。「よくぞ命を賭して私を守り抜きましたね。城ヶ崎じょうがさきくんのことは忘れません」


 生きてるんですが。


「うーん、どうしましょう。まだ蘇生呪文覚えてないんですよねえ」


 生きてるんですが。


「まあ見えているうちはそのままにしておきましょうか。カメラとかには映らないかもですが、凹まないで下さいね城ヶ崎くん」


 生きてるんですが。


「塩には気を付けて下さいね。触れると天に昇ってしまいますよ」


 生きてるんですが。


「では城ヶ崎くんの命を無駄にしないよう、文房具を買いましょうか」


「待たんかい」


 文具コーナーに入ろうとしたトアリの右肩を掴み、俺は引き留めた。


「え、何ですか城ヶ崎くん。おや凄いですね霊体なのに触れられるなんて」


 トアリは軽く肩を回して俺の手を引き離した。


「なに勝手に人を霊体扱いしてんの? 生きてるよね? 目の前で生き生きしてるよね?」


「あ、すみません~。私ってば目が特別でして。浮遊する霊体を可視できるんですよね~」


 他の人間にも見えてるっつの。


「まだ霊体になったのことに気づいてないんですか? ではそこで奇声を上げてみてください。誰も城ヶ崎くんの存在は見えませんから、振り向きません」


「一斉に振り向くわああああああああああああああ!」


 俺が大声でツッコむと、周りの人がチラッとこっちを向いた。

 それにトアリも気づいたようで、


「おや、ここに居る人たちは私と同じ特別な目を持っているようですね」


「ちげーっつの。俺が生きてるから、ご存命だから、まだHP残ってるから。精神的なHPは無くなってるけども。つーかこんなしょーもないクダリやってる場合じゃないの。今は文房具屋に行くって話ね。俺が霊体って話進めるとまた『極楽浄土編』が始まるから止めてくんない? そーやって軌道逸らしてばっかだから一向にこの物語の日にちが進まないの。そろそろその辺のこと考えて」


「なるほど。やれやれ、しょうがないですねえ」


 そりゃオマエだっつの。


「では参りましょうか。消しゴムを買いたいんですよね~」


 トアリは消しゴムのコーナーへ。俺の後を続く。


「うーん、これだと投げても殺傷能力は高くなりませんね」


 何で武器にすること前提?


「これも敵に当たってもダメージが出そうにありません」


 敵って何? てか消しゴムって大体そういうのしかないと思うけど。


「砂消しゴムは硬さがあって良いのですが、消すとき用紙が破れやすいですし」


 なんで硬さを求めてんの?


「うーん、これも突然スナイパーが撃ってきた時に身を守ってくれそうにないし」


 そんなことそうそう無えよ。


「私の左腕を求めて、悪の組織が狙ってくるんですよね~」


 まだ中二病のクダリ続いてたんかいぃ。


「ってことで、これにしーようっと」


 トアリが選んだのは……パンダの顔の形をした消しゴムだった。


(え、えええええええええええええええええええ?)


 あんだけグチグチ言ってたワリにフツーの動物消しゴムううう?


「ふふふ。まずはパンダさんの耳の部分から使って耳を無くしましょう」


 なんでそんな闇が深い人みたいな使い方しようとしてんの?

 なんかあったん?

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