第153話 ここで城ヶ崎俊介を召☆喚するZE☆
「と、とりえずトアリ、買い物行こうぜ……」
「そうですね……」
俺たちは気を取り直して、歩き出した。
「つーか何だよそのダッセー恰好は?」
俺は、上に長袖の白シャツ、下に学校指定の赤ジャージのズボンを履いているトアリのファッションを指摘した。
「なるべく体が汚染した空気に触れないようにしてあるんですよ。スカートだと足が汚染されますし、半袖だと腕が汚染されます」
「あーそういうことか。顔とかはマスクだけで大丈夫なのか?」
いえ、とトアリは言って、
「大丈夫なワケがありません。マスクで覆われていない顔の部分と髪の毛がどんどん汚染されていくのを感じる度に私のHPが減っていきます」
常に毒沼の上歩いてる感じになってんのね。
「ですので活動限界は長くて二時間。お昼前までには終わらせますよ」
「なるほど。まあでも、もっと先に進むために、昼飯食うまで行ってみたらどうだ?」
「無理無理無理! 外食は、すなわち汚染された空気を食すと同じです! 一気に私のHPがゼロになります!」
即死イベントなの?
そーいや課外授業ん時も除菌した部屋でしか何も口にしなかったな。
「分かった分かった。今日は買い物だけにするか」
「そうですね。ううっ!」
ここで、トアリは苦悶の表情で立ち止まり、右手で左腕を抑えた。
「ど、どうした?」
「今すれ違った人が吐いた息によって、私の顔の一部が二十パーセント、髪の毛が三十パーセントほど汚染されてしまいました! あと四十分ほどで活動限界があああああああ!」
しょーもない所で活動限界ゴッソリ削られてんじゃねーよ。
「このままでは、私の左腕が、私の左腕が暴走して周りの人間を一掃してしまうううううううううううう!」
何で中二病まで発症してんの? 潔癖症とセットだっけ?
「し、仕方ありません! こうなったら
トアリは俺の背後に回って、両肩に両手を乗せた。
「さあ、このまま駅構内の文房具屋まで進むのです城ヶ崎くん! そして私が本来受けるはずだった汚染された空気を浴びるのです! いざという時は守ってくれると信じていましたよ!」
買い物の約束した時に言った『守ってくれますし』ってそーいうことだったの?
課外授業ん時も同じことしてたよね。
あの時より距離も縮まったから、もっとこう、精神面で守ってくれるって意味で言ってくれたと思ってたんだけど。
え、もしかして距離縮まったって思ってんの俺だけ?
「ちょっと城ヶ崎くん、早く進んでください。活動限界が近いです」
「ったく……」
俺は背中にピタリとくっつくトアリと共に歩き出した。
(……なにこれ……?)
ホントはね……っていうか本来ならね、こうやって女子とピッタリしてたらドキドキする……っていうシチュエーションなのよ。
でもね、
「疾風の使者に、鋼の願いが集う時」トアリは背中でボソボソ唱えている。「その願いは、鉄壁と盾となる。現れ出でよ、城ヶ崎くんんん」
台無しだよ。
モンスター召喚する時の口上みたいなの唱えてんだけど。
ドキドキもクソも無いよ。
すれ違う人たちは……俺たちを見ながらヒソヒソ。
みんな『カップルが変なプレイしてる』って目で見てくるんだけど。
そりゃそうだよ。
変人を見る目が剣山の如く俺を突き刺してくるよ。
「その調子です城ヶ崎くん」トアリは背後で呟いた。「私のHPはあれから全然減っていません」
いや俺のHPどんどん減ってるんだけど。体中が人々の視線で突き刺されて血まみれなんだけど。
回復呪文とか無いの?
「安心してください城ヶ崎くん。あそこの自販機でジュースを買えば」
俺が回復するってか?
「私の喉が潤います」
オマエが潤うのかよ。外界じゃ飲み食い出来ないんじゃないの?
「でも今はまだ外界では飲めませんので、次の機会にしましょう」
次の機会……か。
「まあ、確かにそこまで潔癖症が緩和したら良いよな」
俺がポツリと言うと……。
トアリが背中でフフッと笑ったのが聞こえた。
俺をバカにする時のそれとは違っていた。
それは、とても嬉しそうな笑い声だった。
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