第146話 メガネのお悩み相談室⑥(sideM)
「実は今、新しいスマホに変えようと思ってるんですの」
またかよ。この一帯で機種変更ブーム来てんだけど。
つーか何でボクに機種変更の相談してくるんだよ。三回も続くのおかしいだろ。
スマホショップ行きなさいって。
「半径百キロ以内に居る、婚約している者を探知できる機能を搭載している機種を探しているんですの」
何のために使うんだそんな機能。
そのそもそんなスマホありませんし。
「そういうスマホさえあれば、一日五十組の婚約破棄を達成できるんですの」
何を言ってるんだアンタは。何を目的に生きてるんだ。
「それがワタクシ、悪役令嬢カレンのデイリーミッションですわ!」
そんなデイリーミッションあってたまるか。
「出来れば充電口とイヤホンジャックは別のスマホが良いですわ。サンタクロースを務めるワタクシの爺やが使ってるようなスマホは嫌ですわ」
あのサンタクロース爺やだったの?
なんでここ繋がってんだ。
「して、そのようなスマホをご存知でしょうか?」
「……いや……充電口とイヤホンジャックが別のスマホならありますけど……。婚約者を探知するスマホは無いですね……」
「何ですってえ? まったく、品ぞろえの悪いお店ですこと!」
いやここ図書館ですし。
「ワタクシの国、グーデンブリアとは大違いですわ!」
グーデンブリアって何? そんな国知りませんが。
「まったく! 婚約者を探せなければスマホとしての存在意義がありませんわ!」
そんな機能なくても充分存在意義あります。
そもそも地球上に存在しませんからね、グーデンブリアって国も婚約者探知できるスマホも。
「ふん、まあいいですわ。婚約してる人なんて自力で探せますし」
自力で探せるの? それはそれで凄くね?
「因みにワタクシの爺やは、サンタとして逆廃品回収をしています」
逆廃品回収うぅ? 逆ってことは、廃品を配ってるってことだよね? 迷惑極まりないんだけど。サンタじゃねーじゃんそれ。
「そしてワタクシは手あたり次第、人々を婚約破棄へ誘います」
なにこの極悪コンビ?
「ワタクシたちこそ、存在意義の塊ですわ!」
アンタたちこそ存在意義の無い生命体だよ。
「おほほほほ! なんとか言ったらどうですか? それとも、ワタクシたちの存在が眩しくて声も出ないんですの?」
そんなことありません。ドス黒く光ってます。ゴキブリと同列にしか見えません。
「おほほほ! 滑稽なメガネですわ!」
とっととグーデンブリアに帰れ。
「あなたがどうしてもというのなら、お付き合いしてあげてもよろしいですわよ!」
「え、嫌です」
ボクは反射的に本音を漏らしていた。
「な、何ですってえ? このワタクシをフるだなんて! 理由を述べなさい!」
ふう……と、ボクは呼吸を整えてから、
「え、何でかって? アナタが人としてモラルに欠ける人間だからですよ。ここが図書館っていうのご存知ですよね? 大声を出していけない場所であることなんて子供でも知ってますよね。知らないとは言わせませんよ? 知った上で騒いでいるんですよアナタは。そんな人間とお付き合いしたい人類なんて存在しません。まあリアルゴキブリなら喜んでOK出すと思いますよ。何せアナタはそれと同列の生命体だ。話も通じないし。まあせいぜいグーデンブリアに生息するリアルゴキブリとでも話していてください」
ボクが早口で畳みかけると……。
カレンさんはガクッと机に撃沈した。
「うう……ぐうの音も出ませんわ……」
涙が浮かんだ目で、カレンはボクを見つめる。
「ワタクシは……ワタクシはどうすれば良いのですか……?」
「そうですね。逆の行いをしてみてはどうでしょうか?」
「ぎゃ、逆?」
「はい。さっきカレンさんが言っていた婚約破棄。その逆をするんです。煮詰まったカップルを婚約へ誘うんです。つまり恋のキューピットになるんですよ」
「こ、恋の……キューピット……」
「ええ。そしてアナタの爺やも、逆廃品回収とかいう迷惑行為をしているようですが、彼にもその逆をさせましょう。経済的な関係でプレゼントを配れないのであれば、街のゴミ拾いをするとか、世のため人のために動くのです」
「よ、世のため……人のため……」
カレンさんの目は輝き始めた。
「世のため人のため! なんて良い響きなんですの! それですわ!」
カレンさんは立ち上がった。
「ありがとうございますメガネさん! ワタクシはこれから人のために動くことにしますわ!」
言うと、カレンさんはドレスをふわふわ躍らせながら、図書館を出ていったのだった。
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