第142話 メガネのお悩み相談室②(sideM)


「実はスマホを機種変更しようかどうか迷っておってのお」


 なにそのしょーもない悩み?


「ワシのスマホ、縦に長くてポケットに収まりきらんのじゃ」


 あ、そうですか。


「イヤホンジャックと充電口の穴が同じだから充電しながら音楽を聴けなくて」


 いや知りませんし。


「何かおすすめの機種を教えてくれんかのう? 店員さん」


 いつからボクは店員さんになったんですか?


「え、えっと、そういうのはスマホショップに行けば良いのでは……?」


 はあ……とサンタはため息を吐く。


「これじゃから若い奴は。ここに困ってる老人が居るのに手を差し伸べようとしないとは。もうダメじゃなこの国は。もう終わりじゃよ。ワシが若かった頃はこういう悩みを親身になって聞いてくれたもんばかりじゃったのに。まったく今時の奴らときたら」


 なにこのサンタああああああああああああああああああ?

 急にメッチャ早口で喋りだしたんだけど。

 腹立つ。居るよこーいう老人。


「キミは眼鏡をかけてるだけのダメガネじゃな」


 黙れアゴヒゲむしるぞ。


「ところでダメガネくん」


 その『ダ』を取れ紅白ジジイ。話はそれからだ。


「彼女は居るのかね?」


「は? 居ませんけど?」


 ボクが素っ気なく答えると、


「あ、やっぱり~?」


 と、サンタはニヤニヤ笑ったのだった。


(こ、コイツうううううううううううううううううううううう!)


 喰らわせたい……ラブリンビームを喰らわせたいいいいいいいいいいいい!


 今度推しのマリアさんに頼もう。サンタを見かけたら撃って下さいって。

 パンダさんにあらゆる角度から殴打されやがれ。


「ダメガネ、今年もクリボッチ……っと」


 やかましいわ。

 まだ七か月以上あるから分かんないもん。


「夏までに彼女を……冬までに彼女を……。そうやってズルズルと過ごしていき……結局、今年も彼女が出来ないダメガネなのじゃった(笑)」


 なに勝手にボクの物語を進めてんの?


「こうしてダメガネの一年は何もなく終わるのじゃった(笑)」


 オマエの人生も終わらせてやろうか?


「ホワイトクリスマスになっても、ダメガネは何も起きないサイレントクリスマスってやつじゃな」


 うん、あなたの心音もサイレントになると良いね。


 流石のボクでも……。

 もう怒ったからね。

 もう取り消せないからね。


 このド田舎の伝達力なら……。

 あの作戦で行くか……。


「あ、ボクちょっとお手洗い行ってきますね」


 ボクはトイレに行くふりをして、


「――もしもし。――事件です。――不審者が居まして。――ええと、住所は○○です。――はい、もうすぐ『近くの田んぼ道』を通ると思います。――はい、はい、お願いします」


 警察に通報してから、すぐにサンタの向かい側の席に戻った。


「あ、サンタさん。実はこの先にスマホショップがあるんです(嘘)。田んぼ道を真っすぐ進んだところです」


 やれやれ、とサンタは立ち上がる。


「本当に、今時の若者ときたら……」


 ぶつぶつ言いながら、サンタは図書館を出ていった。

 そして間もなくパトカーがやってきて……。


「な、何をする! 離せ! ワシはサンタじゃぞ!」


 警官に囲まれて叫ぶサンタの姿を、ボクは図書館からほくそ笑んで見ていた。


「サンタ、ボクの勝ちだ」


 ボクは呟いた。


「はいはい、話は署で聞くから」


 と、サンタは警官にパトカーに乗せられたのだった。

 パトカーはゆっくりと田んぼ道を進み、やがて見えなくなった。

 流石は田舎。すぐ警察の人が駆けつけてくれた。


(計画通り)


 ボクはニヤリと笑った。

 そして元の席に戻って、勉強を再開することに。

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