第141話 メガネのお悩み相談室①(sideM)


 皆さんお久しぶりです。

 メガネです。

 昨日、一命をとりとめたメガネです。


 ええ、城ヶ崎じょうがさきくん率いる魔王軍のお陰で魂を取り戻せたメガネです。

 早乙女さおとめ勇気ゆうきっていう名前がありますが、覚える必要はありません。


 ボクは今、親戚の付き合いでド田舎に来ています。

 ゴールデンウイークはずっとここで暮らすことになりそうです。


 この地域……。

 空気も美味しいし……。

 青空も綺麗だし……。

 鳥のさえずりが聞こえてきたり……。

 見渡せば綺麗な山肌が出迎えてくれる……。


 のは良いんだけど……。

 何も無いんだよね。


「はあ……」


 本当は城ヶ崎くんとメイド喫茶で楽しみたかったんだけどな……。


「しょうがない……」


 ボクは通学鞄を片手に田んぼ道を歩いていた。

 にしても、まだ五月に入ったばかりなのに暑いな……。

 半袖半ズボンで出歩いてきて良かった。


「あ、うん、夕方には戻るよ」


 と、母さんに電話で伝えてから、ボクは歩を進めた。


「やっと着いた……」


 親戚の家から歩くこと二十分で、村の図書館に着いた。

 中はエアコンがついていて涼しかった。


(にしても静かだなぁ……)


 司書の人が居る程度で、他の利用者は居ない。

 正に貸し切り状態。

 勉強するのに打ってつけだ。


(やるか……)


 だだっ広い真っ白の机に教科書と問題集を開いて、ボクは勉強を始めた。

 うん……この世に自分しか存在してないと思えるくらい静かで……心地良い……。


 すぐに勉強の世界に入り浸ることが出来た。

 勉強を始めて、一時間が経ったくらいだろうか。


「ちょっと良いですか?」


 正面から話しかけられた。

 ハッと、ボクは勉強の世界から抜け出す。


 顔を上げて、正面を見ると……。

 そこには顎に白髭を生やしたお爺さんが居た。全く面識の無いお爺さんだった。


 その、白髪のお爺さんは、サンタクロースの恰好をしていた。

 サンタが被る、赤と白の帽子を被っている。

 サンタが着る、赤と白の服を身にまとっている。


「ここ、座ってもよろしいですかね?」


 言うと、サンタ(?)はニッコリと笑ったのだった。


(え、ええええええええええええええええええええええええええ?)


 な、なんか来たああああああああああああああああああああああああ!


「無理なら良いのじゃが」


 サンタ(?)は申し訳なさそうに言った。


「あ、いえ、その……」


 ヤバいよ完全に不意を突かれたよ。

 これまで色んな修羅場を潜り抜けてきたボクだからさ……。

 何が来ようと驚かないはずなんだけど……。


 サンタクロースは想定してなかったよ。

 意識外の来客だよ。


 せめて悪魔とか閻魔大王とかそーいうのにしてくんない?

 それならまだ対応出来るから。


 ゴールデンウイークにサンタクロースはマジで無いよ。

 もうちょっとクリスマスに近い時期に来てよ。

 それなら心の準備出来てるから。


「あ、そのー、どうぞ」


 ボクが了承すると、サンタ(?)はニッコリと微笑んで正面に座った。


「ところでキミ、ワシが誰か分かるかね?」


 サンタ(?)は白い顎鬚をいじりながら聞いてきた。


「え、あの~、えっと……。も、もしかして……小さいころに皆が信じてた的なアレだったり……?」


 ボクは慎重に口を動かしていた。


「ほほう。ワシを見て一瞬にして正体を見抜くとは。只者じゃないな?」


 いや丸出しだと思うけど。


「そうやってワシの正体を見抜いたのは二足歩行のトナカイ以来じゃ」


 二足歩行のトナカイって何?


「アイツが百メートル走で十秒の壁を破った時は一緒に感動したもんじゃわい」


 何の話ですか?


「おっと失礼。実は、今日はちょっと悩みがあってのお。聞いてくれんかね?」


「は、はあ……。ボクでよければ……」


 なんか知らんけどサンタの悩み相談受けることになった。

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