第140話 夕暮れ二人の時間
「疲れた……」
店を出た瞬間、ドッとした疲れが俺を襲った。
もうすぐ夕暮れ時か……。
ケッコー時間かかったな……。
「良かったじゃないですか。無事、
そう言う金色の防護服を身にまとったトアリは、メガネくんの魂が入った牛乳瓶を両手で持っている。
金色の防護服が、落ち始めた日の光を反射して眩しい。
「まあな……。牛乳瓶はどっか安全なとこで慎重に割るとして……。とりあえず一件落着だな……」
「ええ。割るのは学校の裏庭にしませんか? 近くにガラスの捨て場もありますし」
「よし、決まりだな」
俺たちは学校に向かって歩き出す。
「しっかし、まさかトアリを誘うメッセージを考えてただけで、ここまで面倒事に巻き込まれるなんてな……」
疲れからなのか、安堵からなのか……。俺はつい、本音を零してしまっていた。
「ほう。私をどこに誘おうとしたんですか?」
「え? あ、いや……」
ワンテンポ遅れて、俺は本音を漏らしていたことに気づいた。
「別に……、ゴールデンウィーク……暇だからトアリをどっかに誘おうとしただけだっつの」
「ふーん」
「何だよ?」
「別に」
トアリの声は笑っていた。
しばらく沈黙。
「……なあトアリ……。ゴールデンウィーク中……駅前で文房具買いに行かないか?」
メッセージの時とは違って、自然と伝えることが出来ていた。
「トアリが忙しいんなら良いけど。人が多い汚染区域には行きたくないかもだし」
何で俺は、断られる理由を勝手に作っているのだろう……。
その時は理由を見いだせなかった。
「しょうがないですねえ」
やんわりとトアリは言った。
「丁度、消しゴムが無くなりそうだったんですよ。それに
クスッと、防護服の中で笑ったのが聞こえた。
それが、俺が勝手に作っていたトアリとの壁を崩してくれた。
「よし、じゃあ、明日か明後日。予定が合ったら行こうぜ」
「ええ。午前中にしましょう。その短時間なら防護服ナシでも行けそうです」
「何だよ大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。帰ったら衣類は全て洗濯して、シャワーを浴びて汚染された身を清めます。そうすれば元通りになります」
「ふーん」
「それに」
「……それに?」
「いざというときは城ヶ崎くんが守ってくれますし」
その意味を聞き出そうとしたら……。
トアリはメガネくんの魂が入った牛乳瓶をブンブン振り回しながら走り出した。
「待て待て待て! それメガネくんの魂! 丁重に扱ええええええええええええええええええ!」
夕日を反射する黄金の防護服を追いかけるという、人類初の偉業を成し遂げた。
それは、ゴールデンウィーク初日のことだった。
【眼鏡奪還編】
-おしまいー
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