第139話 ユウポンさん(※二人目)の正体。


「……岩田いわた先生? ちょっと良いですか?」


 俺は静かに口を開いた。


「あら、どうしたの城ヶ崎じょうがさきくん?」


「新人って……『ユウポン』ですよね?」


「ええ、そうよ」


「そのユウポンのお陰で、先生は眼鏡をかけられるようになったんですよね?」


「ええ、そうね」


「……一応ですけど……。そのユウポンの特徴とか聞いても良いですか?」


 うーん、と岩田先生は唸ってから、


「人の魂を宿した、牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡よ」


 それえええええええええええええええええええええええええええええええええ!

 それメガネくん!

 早乙女さおとめくん!

 あなたの生徒の早乙女勇気ゆうきくんの魂!


「それですそれです! それメガネくんの魂! ユウポンも勇気って名前から来てますよね!」


「ああ~……。見覚えがあったとは思ってたけど、言われてみればそうかもね」


 何で今まで気づかなかったんですか?


「それ取り戻すために来たんですよ! 持ってきてもらっても良いですか?」


「構わないけど、追加料金発生するわよ?」


 生徒の魂なのに?


「眼鏡をかけるのもオプションだからね。キッチリ払ってもらわないと」


 マジかよ。俺あんま持ってきてないんだけど。


「い、いくらぐらいですか?」


「百円(税込み)よ」


 安うううううううううううううううう。なんでユウポン自動販売機のジュースより安いの? まあいいかそんなことは。


「わ、分かりました! 払いますので持ってきてください!」


「しょうがないわねえ」


 岩田先生は奥の部屋に行った。

 長かった……。これでようやくメガネくんの魂を取り戻せる。


「はい、お待たせ」


 岩田先生は正面の席に戻ってきた。メガネくんの魂の眼鏡をかけてきたかと思いきや……違った。

 岩田先生は空の牛乳瓶を、テーブルの上に置いたのだった。


「あれ? メガネくんの魂は?」


 俺が問うと、


「何言ってるの城ヶ崎くん。牛乳瓶の中に入ってるじゃないの」


 岩田先生は言った。


(牛乳瓶の……中……?)


 良く見てみると……岩田先生が持ってきた牛乳瓶の中には……。牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡が入っていたのだった。


(え、ええええええええええええええええええええええええ?)


 どーなってんのこれええええええええええええええええええええ?

 入口の広さ的に絶対中に入らないよねこれ?


 ボトルシップみたいに眼鏡が入ってんだけど。

 え、中で生成された?


「なるほど、これをハンマーで思いっきり叩けば早乙女くんの眼鏡を取り戻せますね」


 トアリは冷静に言った。

 ハンマーで思いっきり叩いたら下手すると中身の眼鏡もついでに砕けるだろーが。レンズとガラスの区別つかなくなる。


「こちらがユウポンでーす。私もユウポンでーす。二人合わせてポンポンコンビでーす」


 いいから岩田先生。今そーいうのいいから。


「しょうがない……。ちょっとずつ慎重に衝撃を与えて牛乳瓶を割って、中身を取り出すしかねえな……」


 俺が言うと、岩田先生は「あら」と声を出した。


「城ヶ崎くん、もしかしてユウポンさんを『お持ち帰り』希望なの?」


 変な言い方しないでくれます?


「……メガネくんに返しにいくだけですよ……」


「うーん、あなたが言うなら特別にどうにかするわ」


「ホントですか?」


「別途料金がかかるけど」


 何でだよ。何で教師が生徒の魂売ろうとしてんだよ。閻魔大王ですかアナタは?


「城ヶ崎くん、ここが正念場よ。お金を取るか、友達の魂を取るか……。その選択で、あなたの人間性が出るわ」


 やかましいわ。


「……因みに……いくらですか?」


 俺が恐る恐る聞くと、


「マイナス百円ってところね」


 マイナス百円って何?


「えっと、岩田先生? 言ってる意味が解らないんですけど?」


「だからマイナス百円よ。このメガネくんの魂を持って帰りたければ、お店から百円受け取らなければならないわ」


 なにその不用品回収代みたいなシステム? なんで厄介者扱いされてんの?

 オプション料金と合わせてプラマイゼロじゃねーか。


 ま、まあいい……。

 これでホントに……長かったメガネくんの魂奪還劇が終わる……。


「分かりました。じゃあ持って帰るので、会計お願いします」


「ありがとうございます、ご主人様☆」


 こうして俺たちは、無事……メガネくんの魂を取り戻したのだった。

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