第132話 地球外生命体、メイドさん


「いやー、ログボの弥勒菩薩は遠慮しときます……」


「かしこまりました、ご主人様! でしたら野に放ちますね!」


 マリアさんは満面の笑みで言った。


「え、弥勒菩薩を野に放つんですか? 大丈夫ですか? その辺の人間ボコしたりしませんか?」


「ご安心くださいませご主人様。もしそんなことしたら私たちがあらゆる角度から全力で殴打した後にスクラップ機で潰す――」


 はわわ~、とマリアさんは両手を口に当てて、先の言葉を強引に飲み込んだ。


「え、何? いま物騒なこと言いましたよね。殴打してスクラップ機で潰すとか言いませんでした?」


「滅相もございません! もし野に放った弥勒菩薩が暴れるようなことがあれば、私が『ラブリンビーム』を撃って改心させますね!」


 ラブリンビームって何?


「え、ええと……ラブリンビームって……?」


「私、マリアだけが撃つことが許されてるラブリーなビームですよぉ。ご主人様ってば、忘れちゃったんですか~?」


「あー、すみません。長く家を離れてるウチに、うっかり忘れちゃいまして。どういう効果があるんでしたっけ?」


 も~、とマリアさんは頬を一瞬だけ膨らませてから、


「ラブリンビームを受けた相手は、パンダさんから、あらゆる角度から全力で殴打された後、クマさん五百体分の重さで潰されちゃうんですよ~」


 さっきと概要一緒じゃねえかあああああああああああああああああああ。

 全然変わってないよね。むしろそっちのが恐怖なんだけど。


「更にその後、残骸をサメさんに食べられちゃうってワケです(笑)」


 笑えない笑えない。なにこの溢れでるサイコっぷり?

 なんでもかんでも「さん」つけたりしたらファンシーになるとでも思ってんの?


「つまりサメさんのさん』に溶かされちゃうワケですね(笑)」


 上手くねーし。


「マリアンラブリンです❤」


 と、突然、マリアさんは可愛く言いつつ口元でダブルピースした。

 ……え、なに今の? もしかしてごまかせるとでも?

 まあいいか。これ以上言及するとややこしいことになりそうだし。


「あ、ええと、とにかく弥勒菩薩は任せても大丈夫ってことですか?」


「ご理解いただけたようで嬉しいですご主人様!」


 キュルルン☆ と言いながら、マリアさんは可愛らしく口に両拳を当てた。

 ……さっきから挟んでくるネタの正体は何なの?


 突発的過ぎるんだけどネタの挟み方が。挙動が地球外生命体並なんだけど。

 メイドさんってこんな感じなの?


「ところでご主人様、今日はどうなさいますか?」


 そうだったそうだった。

 ここに来た目的を忘れるところだった。

 ある意味、魂抜かれてたわ俺。


「ええと、ここに友達の魂があるっぽくて、それを受け取りに来たというか……」


「ご主人様? おっしゃっている意味が解りませんが?」


 まあそうだよな、そうなるよな。


「ご主人様、アタマ大丈夫ですか?」


 急に素になって地球人の対応すな。


「あ、今の冗談です~。ちょっと漫画とか読みすぎたかな~」


「も~ご主人様ったら~」


 とにかく聞きだせそうにはないな……。

 この店内にメガネくんの魂があるはずなんだけど……。

 仕方ない、メイド喫茶とやらを体験しつつ探すか。


「じゃあちょっとだけ休憩しようかな」


「かしこまりました、ご主人様。因みになんですけど、今なら指名料が無料となっております」


「指名料?」


「はい。今ならお気に入りのメイドさんを無料で指名出来ますよ!」


「へ、へえ~」


 お気に入りとか言われても、初めて来たしな……。


「じゃ、じゃあ、オススメの人を頼んでも良いですか?」


「かしこまりました、ご主人様! では『ユウポン』をお呼びいたしますね!」


 ユウポン? ああメイドさんの名前か。


「ユウポンさん、ですか。分かりました」


 ユウポン……。

 なーんか名前が引っかかるんだけど……。

 スゲー身近な人のような……。

 いやいやいや、気のせいだろ。

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