第131話 魔王IN冥土?
前にメガネくんから聞いたメイド喫茶の情報を頼りに、俺は駅前に来ていた。
急いでいたこともあって、上は紫のTシャツ、下に黒ズボンというラフな私服姿で。
「ここか」
雑居ビルの地下二階に、そのメイド喫茶はあった。
(トアリも来てくれるらしいし……)
急なことなのに、ちょっと遅れるけどトアリも加勢にきてくれる。
加藤にも連絡を入れておいたが、返信は来なかった。
金剛力士像には連絡しないでおいた。
家族水入らずで過ごしてほしいし……。
(ここ……だよな……?)
ピンクの扉に『おかえりなさいませ』と書かれたプレートが掛かっている。その周りに、色とりどりのハートや星のシールが貼られている。
入り口を見る限り、あの世と繋がりを持っているとは思えないが……。
「ん?」
扉の上の方に、メイド喫茶の名前が書かれている。
【メイド喫茶 ~極楽浄土~ あの世から新鮮なモノも入荷します❤】
ここだあああああああああああああああああああああああああああああああ!
完全にここだよね。
極楽浄土って、あの世からの産物入荷してる冥土の喫茶だよね。
ここにメガネくんの魂があるのか。
なんか違う意味で緊張感あるな。
……でもメガネくんを取り戻すためだ……。
それに、例え閻魔大王とか出て来ても……。
『倒せば』終わりだろ?
こちとら毎日毎日応用とか発展問題とか頭ン中掻き乱しながら考えねーと解けねえ問題をバカみてーに解きまくってんだよ。
倒して終わる、とかいう頭使わなくても解決するようなシンプルな設問なんて『問題』にすらならねーわ。
そう考えると楽勝な気がしてきた。ちょ、やべ、逆にワクワクしてきたんだけど。
とっとと閻魔大王でも魔界の主でも倒して帰るか。
「よし、行くか!」
俺は魂が抜かれないようにと、気合を入れてから扉を開いた。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
俺が入店したとほぼ同時のことだった。
黒を基調としたメイド服姿の女性が出迎えてきた。
(……あり?)
店内はピンク色のモノで支配されていた。カウンター、レジ、テーブル、椅子等々、ほとんどのものがピンク色に染まっている。それらのモノは、白くて綺麗な照明で照らされているため、キラキラ輝いて見える。
想像していた冥土とは違って明るいし……。浮遊霊とかも居ないし……。店員さんや、他の客にも変なとこは無いし……。
冥土じゃなくて、普通のメイド喫茶……だよな……? 初めて来たからどういうのが普通なのか分からんけど……。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
またもメイドさんは言った。黒のポニーテールのメイドさんは『マリア』と書かれた名札を左胸に着けている。
「えっと、初めて来たんですけど……」
ヤベーよ雰囲気的にここじゃないのかも。
でも何もせずに『場所間違えました、帰ります』なんて言ったら失礼かな……。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」マリアさんは言った。「お久しぶりですね!」
いや初めて来たんだけど……。そうツッコむ寸前に、俺はハッとした。
(あ、そうか、なるほど)
メイド喫茶の設定を守って『初めまして』を『お久しぶり』って言ったのか。
メイド喫茶って、帰宅したらメイドさんが出迎えてくれる……というシチュエーションを楽しむ場所だっけ。
確かに……家に帰るのが初めてなんて奴居ないしな……。
スゲーよメイド喫茶の女の子。マリアさんだっけ。咄嗟にそこまで考えて……。
ってなに感心してんの俺?
「あー、そうなんですよね~。ちょっと家をほったらかしにしすぎましたかね~」
「お仕事、お疲れ様でした! ご主人様が海外へ単身赴任に行ってから寂しくて寂しくて(泣)」
あ、そういう設定ね。
「あーすみません。それでそのー。久しぶりだから勝手が分からないなー……なんて思っちゃったり」
「かしこまりました! 因みになんですが、久しぶりのご主人様にはログインボーナスがございますよ!」
……ん? ログインボーナス?
「え、ログインボーナスですか? な、何が貰えるんですか?」
「もちろん弥勒菩薩でございます!」
ここだああああああああああああああああああああああああああああああ!
やっぱここだわメガネくんの魂ある所。ログボで弥勒菩薩貰えるメイド喫茶なんて他にねーだろ。
てか『もちろん』って何?
弥勒菩薩が貰えることに対して決して付かない日本語だよねそれ?
やっぱ『冥土』喫茶だからそれがフツーなの?
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