第130話 素直にすれば


(ああああああああああああああああああああああああああああ!)


 間違えてトアリにツチノコのスタンプ送っちゃったんだけど。

 ヤベーよ急にツチノコのスタンプなんて送ったら完全に危ない奴だよ。

 ど、どうしよう、今なら送信取り消しに出来る――、


【既読】


 し、しまったああああああああああああああああああああああああ。

 消す前に既読されたわ。

 ど、どうなるんだこれ……。


トアリ『なにこのスタンプ。いとをかし』


 それは、いつもの調子のトアリで、何でもない返信だった。

 でも不思議と、直接話すときより、返ってきた反応がとても嬉しく思えた。

 学校で会うトアリと違う雰囲気があって、新鮮だった。


城『あ、えっと、面白いスタンプ買ったから送ってみたんだ』


トアリ『ふーん』


 ここで間が空いた。

 しばらくすると……トアリから俺が使っていた『ツチノコ』のスタンプが送られてきたのだった。


 何故だか俺はとても嬉しくて……。

 つい、笑みを零してしまっていた。


城『さっそく使ってんじゃねーよ』


トアリ『ジーより可愛いから使ってしまいますね』


 え、なにこれ。

 Gとか言われても全然ツッコミたい気持ちが湧いてこないんだけど。

 むしろ嬉しいんだけど、こうやってやりとり出来るの。


 お互いの家に居ながらのやりとりだから……。

 特別に感じるから……なのかもしれない。


 さっきまで、どうやってトアリにメッセージを送ろう……。

 そう悩んでいた俺がバカみたいだ。


 最初からこうやって……。

 難しいことなんて考えず、普通に送ってりゃ良かったんだ。


トアリ『城ヶ崎じょうがさきくんは、今何をしてたんですか?』


城『勉強だよ』


トアリ『嘘つくの下手ですね』


 ここで俺はツチノコのスタンプを送ってから、


城『バレた? 部屋でダラダラしてた笑』


トアリ『私もです笑』


 ピコーンとトアリからツチノコのスタンプが送られてくる。

 え、楽しいんだけど。


 ……なんかすんごい重要なこと忘れてるような気がするけど……。

 まあ楽しいから良いか。


トアリ『お昼ご飯は何食べたんですか?』


城『牛丼(並)だよ。トアリは?』


トアリ『私はお母さん手作りのエビチリです』


城『え、トアリの母ちゃんエビチリ作れるの? レベル高くね?』


トアリ『調理師免許持ってますので』


城『へえ~』


 俺は、ビックリ顔をしたツチノコのスタンプを送った。


トアリ『やはり料理が出来る人の方が良いですか?』


城『別に。でも、料理上手い方が良いなとは思うかも』


トアリ『へえ。じゃあ料理練習しようかな』


 トアリは炎のオーラを纏うツチノコのスタンプを送ってきた。


 ヤベーよ楽しいんだけど。

 学校でのやりとりとは別の……特別な感じがあって楽しいんだけど。


 このままずっと続けていたいけど……。

 その気持ちを知られるのも照れくさいし……。

 今日はこれくらいにしとこうかな。


城『練習するのは良いけど、包丁の扱いには気を付けろよ』


 俺は、ほくそ笑むツチノコのスタンプを送った。


トアリ『大きなお世話です』


 トアリから、不敵な笑みを浮かべるツチノコのスタンプが届いた。

 それを俺が既読したところで、メッセージは終わった。


 ……ああそうだ、トアリを誘うの忘れてたな……。

 まあ、また今度で良いか。

 明日……うん、明日にするか……。


 ……それにしても、なんか重要なことを忘れてるような気が……。


メガネ(邪霊)『少年! メガネくんの魂は取り戻せそうかね?』


 ……………………………………あっ。


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