第120話 勉強してきてないケ原の戦い


「皆さんおはよう!」


 と、加藤かとうが元気の良い挨拶と共に教室に入ってきた。

 皆から投げられる「おはよう」に、加藤は一つ一つ丁寧に応えていく。

 そして、俺の右隣の席に座る。


「ようやくテストね! 気を引き締めて行くのよ!」


 朝からうるさっ。でも皆のこと気にかけてるみたいだし……意外と良い奴なんだよな、加藤って。


「特にリスニングには気を付けて!」


 それを受けて、皆が「おう」だの「うん」だの応える。

 流石は生徒会副会長。この一瞬で皆の気を引き締めるなんて。


「名前の記入も忘れずに! いいわね! 私!」


 さっきから自分に言ってたんかいぃ。声量的に皆に向けて言ってたかと思うじゃねーか。紛らわしいな。


「ふふふ。ああ城ヶ崎じょうがさきくんは勉強してきたの?」


「へ? ああ、してきたけど――」


 俺は先の言葉を飲んでしまった。

 加藤が、明らかに徹夜したであろう目をバッキバキに開いていたからだ。


(え、えええええええええええええええええ?)


 おまえもおおおおお?

 完全に徹夜してきてるよ。基礎問題しか出ねえからそんな勉強しなくても大丈夫だっつーの。人の話聞いてない奴ばっかか。


「へー。城ヶ崎くん勉強してきたのね! 私は全然してきてないわよ!」


 そしておまえもこっちに来るんかいぃ。


「加藤の姉御も勉強してきてないでやんすか?」


 金剛力士像が入ってきた。


「ええ! 金剛力士像くんも勉強してきてないのね!」


「そーでやんす。いやー不安だなー」


 勉強してきたのに勉強してきてないって言う奴同士が会話すんの初めて見たよ。

 どう着地すんのこれ?


「オイラは歴史が自信あるでやんす。勉強してきてないけども」


 勉強してきてない合戦が始まったよ。


「点数を取りすぎて、もしかしたら歴史のテスト中に歴史的建造物になってるかもしれないでやんす」


 もうすでにそれだろオマエは。


「なるほど! 私は特に英語が自信あるわよ! 徹夜して眠い! まあ勉強してきてないけどね!」


 サラッと間に答え言ってなかった?


「TOEICで九百点取れるくらいしか自信無いけどね!」


 それは普通にスゲーな。そんな勉強したのかオマエ。

 てか何度も言うようだけど基礎問題しか出ないからね?


「良い点取りすぎて、私は英語のテスト中に英国人になってるかもしれないわ!」


 それはねえよ。


「アイキャンスピーク……あ! つい英語が出てしまったわ! 危うく英国人になるところだったわ!」


 くだらねえよ。


「ふっ! AHAHAHAHA! あーおかしい!」


 自分のネタで爆笑するな。さり気に英国人になってんじゃねえよ。


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