第91話 ささやかで、大きな願い(sideM)


 神社に向かう途中、信じられないくらいの速さでボクの横を女子が駆け抜けていった。それが加藤かとう律子りつこさんだということに、ボクはワンテンポ遅れて気づいていた。


(気のせいかな……)


 加藤さんは、やってやったぞと言わんばかりの笑みを零していたかのように見えた。まるでピンポンダッシュに成功した子どものように。


「あら早乙女さおとめくん。あなたもお参り?」


 そう声をかけてきたのは、岩田いわた先生だった。今日も黒スーツをバッチリ着こなしている。


「あ、はい。岩田先生もですか?」


「ええ。ま~あんなのに頼らなくても私は大丈夫だけどね」


「へえ……。何を願ったん――」


 ですか? と聞こうとしたら、


「……知りたい?」


 と、岩田先生は獲物を見つけたアサシンのように、どす黒く笑いながら言ったのだった。

 これは、聞いたら、あかんやつや、とボクの本能が言っていた。


「あ、いえ、全然!」


「そう?」岩田先生は表情をパッと柔らかな笑みに変えた。「人には知らない方が良いことがあるからね?」


 何を願ったんですか?


「じゃあ早乙女くん、集合時間には戻るのよ?」


「あ、はい……」


 ニコッと笑った岩田先生と別れ、ボクは奥の神社に入った。

 そして賽銭箱の前に立ち、ゆっくりと願う。


「……二年生でも担任は岩田先生で、城ヶ崎じょうがさきくんと鞘師さやしさんと一緒のクラスになりますように」


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