第92話 またね


「何はともあれ、課外授業、無事に終わって良かったよな、マジで」


 帰りの新幹線にて。

 窓際の席に座る赤の防護服を着たフルアーマー系女子、鞘師さやしトアリに向かって俺は言った。


「にしても疲れましたよねー」


 疲れたのは主にこっちなんですが。


「まあ城ヶ崎じょうがさきくんが迷子になるようなことがなくて良かったですよ」


「小学生じゃねーんだから迷子になるわけねーだろ?」


「いえいえー。城ヶ崎くんってアレじゃないですかー。脳みその成長が小学生で止まってるっていうか」


 ふざけるな。


「だから迷子……そう、汚染地域に行かないようにしなきゃ」


 ここでまさかの『迷子=汚染地域に行くこと』発覚? 言葉のフィルター明らかになるの遅くね?


「そのためにあの日、学ランの後ろに発信器付けといたんですけどね。無駄に終わりました」


 ……今……なんか言ったな……。


「城ヶ崎くんのことですから、この日まで学ランを洗わないだろうってこと、分かっていましたよ」


 今、すんごい重要なこと言っ――、


「おいトアリ、それってまさか……」


 俺は気付いた。


 あの日……トアリに背中を叩かれたことを思い出して……。


 学ランを脱いで、その背中の部分を確認してみると……。

 チカチカと赤い光を放つ、豆粒ほど小さな発信器が付いていることが発覚した。


「おい、おい、何だこれ?」


 俺は発信器を取って、トアリに見せ付けた。


「えー、知りませんよー(震え声)」


「ゼッテー知ってんだろ! おまえホント嘘つくの下手だな! これ犯罪だかんな!」


「はいはいどうもすみませんでしたー(棒)」


「ちょっとは反省しろやあああああぁ!」


 俺は発信器をトアリに投げつけた。腹立つことに、トアリは物凄く華麗にそれをキャッチしたのであった。


「ったく……」俺は学ランを着て、「で? トアリは名前書いたのか? お婆ちゃんにあげるお土産に」


「ええ書きましたよ。でも誤解しないで下さいよ?」


「分かってるよ。あくまで『友達同士』としての証だろ?」


「それを聞いて安心しました。では城ヶ崎くんの、渡して下さい」


「はいよ」


 俺はお土産の片割れを渡した。

 青いハートの半分のアクセサリーを。

 その中の紙には『城ヶ崎俊介しゅんすけ』と書かれている。


「ちゃんとトアリのと完成させて『渡す』んだぞ?」


「分かってますよ、もう」


 トアリはリュックの中に片割れをしまった。

 その後、沈黙が訪れた。

 俺とトアリにしては、長い沈黙。

 三十分はあったと思う。


「なあ」


 沈黙を破ったのは俺。


「あのさ、提案なんだけど」


「何ですか?」


「また、来ないか?」


 え? とトアリは意外そうな声を出した。


「今度、また一緒に行かないか? 勿論、二人きりとは言わない。そうだな……その時は一緒に来てくれる『友達』が沢山居るのかも」


「……どういうことですか?」


「決まってるだろ? トアリの潔癖症が治った後に行くからだよ。その時にはトアリの周りには沢山、人が集まってると思う。沢山の友達が居ると思う。ってか、絶対にそうだと言い切れる。潔癖症が治ればの話だけどな」


「ふ、ふん。まあ、私は完璧ですからね、中身は。自然と人がわらわら寄ってくるほどに」


「中身の中身はアレだけどな」


「う、うるさい! ゴキブリ風情が!」


「なんだと?」


 キッと睨み合う俺とトアリ。

 だったが、何故だか次第に笑いがこみ上げてきて、笑い合ってしまった。


「なんか変だよな、俺たち」


「ええ、まったくです。変な関係ですよねー」


 ふふっと笑い合う俺たち。


「まっ、トアリが良いって言うんなら、二人きりで行ってやってもいいぞ? 奈良に」


 すると、トアリは、ほんの少し嬉しそうな声でこう呟いた。


「いとをかし」




                                         (つづく)


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