第87話 お土産を買おう!


「へー、結構あるんだな」


 お守りや木刀、お菓子やキーホルダー、金メッキの小判やおみくじ等々、神社のお土産屋さんにしてはバリエーションが多かった。


「俺も買おうかな、なるみちゃんに」


 俺は鳥居の形をしたピンク色のキーホルダーを買った。家族にはお守りを買っておいた。


「そうですねー。私はこれにしましょう」


 トアリが手にしたのは、二メートルほどの矢であった。


「これ欲しかったんですよー。『破魔はま』」


 なにに使うつもりだ。


「これを、なるみに近づいてくる下品なことしか考えてない男に放つとして」


 放つとしてって何? 確定?


「なるみにはお守りかな。あとキーホルダー」


 その辺は普通か。


「お父さんとお母さんには……」


 …………………………。


「………………………………………………」


 なにその間。なんかとんでもねーもん買おうとしてんじゃねーだろうな。


「ああ、これにしましょう。湯飲みを一つずつ」


 普通か。


「私の分は木刀買ーおうっと」


 普通か。


「あと、おみくじ引きましょう」


 だから普通かて。


「あっ、城ヶ崎じょうがさきくん。お金払って下さい。今は小銭が無いのでお願いします」


 不通貨ふつうか


「ありがとうございます。よーし、引きますよー……。何だ、吉か」


 普通か。


「さっ、城ヶ崎くん。私はこれだけ買うので、お支払いお願いします。お金は渡しますから。お釣りからさっきのおみくじの分、取っておいて下さい」


「はいはい。了解しましたよ」


 買い物を済ませた後、俺は忘れ物に気付いた。


「なあトアリ、お婆ちゃんには買ったか?」


「……いえ……。忘れていたわけではありませんが……。まだまだお婆ちゃんに顔向けできないっていうか。今の私じゃ……」


 寂しげな声でトアリは言った。


「……じゃあさ、二人で買わないか? お婆ちゃんのお土産」


「二人で、ですか?」


「ああ。二人で買って、二人で『渡そう』。俺、トアリが他の場所で泊まったり、限定的な場所とはいえフルアーマー状態じゃなくても出られるようになったりと、ここまで良くなったのも、自分のお陰だと自惚れてるっていうか……。何だろうな……その、二人なら顔向けできるかなーって」


「……」


「勿論、トアリ自身も頑張ってくれたのは分かってるつもりだし……。どうだ?」


「……ええ……構いません……」


 頷くことで、トアリは強く承諾の意を伝えてくれた。


「決まりだな。お金もそうだし、お土産の内容も二人で考えようぜ」


「……そうですね。とびっきりのものを買って帰りましょう」


「よし、じゃあ……えっと……」


 お婆ちゃんは元気なトアリが好きだった。

 外で楽しく遊ぶトアリが好きだった。

 みんなの人気者で、太陽のように明るいトアリが好きだった。

 今はもう、失ってしまったけれども……。

 この先、少しずつ良くなっていくと思う。

 まだ変化は見られなかったけど、周りも少しずつ変わってくれると思う。

 その一歩を伝えられる何かを買うべきだと俺は思っていた。

 トアリもそう思ったらしく、


「あっ」


 俺とトアリは、同じものを指差したことに、揃えて声を出した。


「……なるほど……同じか……」


「そのようですね」


「何だよ。『まさかゴキブリと同じモノを選ぶなんて』って言わないのか?」


「言いませんよ。だってもう、城ヶ崎くんは人間タイプGですからね」


「あのな。俺は最初から人間だっつの!」


 俺がツッコンだその時だった。

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