第88話 二人の願い


 ある人物が神社に入ってくるのに気付いた。


「……あれ? 岩田いわた先生と加藤かとう……だよな?」


「あっ、ホントだ……」


 賽銭箱の方に歩いていく岩田先生と加藤を見て、トアリは言った。


「ちょっと尾行してみましょう」


「お、おい待てよ!」


 俺はお婆ちゃんへのお土産を買ってから、トアリに続いて岩田先生と加藤の尾行に出向いた。


「賽銭箱の前で願い事をしようとしてますが……」


「何を願うんだろうな……岩田先生って。加藤の方も気になるっちゃ気になるっていうか」


 物陰に隠れて、俺とトアリはヒソヒソ開始。


「ちょっと聞きに行って下さいよ、城ヶ崎くん。何やらブツブツ願い事を言っていますから確認できますよ?」


「はあ? 何で俺なんだよ? トアリが行けばいいだろ?」


「私は無理です。防護服の音でバレますから。でも城ヶ崎くんならカサカサと気付かれずに行けるじゃないですか」


「誰がゴキブリだ誰が」


「もー、ツッコンでないで、早く確認して下さいよ。機を逃しますよ? あの二人が何を願うのか気になるじゃないですか」


 確かに、かなーり気になるしな……。


「……分かった……。カサカサは行かないけど、気付かれぬよう確認してみる……」


「頼みましたよ?」


 俺はゴキブリ――ではなく忍者のような忍び足で、願う二人の背後に忍び込んだ。

 そして、そーっと願いに耳を傾けると、


「結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚」


 と、岩田先生は連呼。


「トアリさんと結ばれますようにトアリさんと結ばれますようにトアリさんと結ばれますようにトアリさんと結ばれますようにトアリさんと結ばれますようにトアリさんと結ばれますように」


 と、加藤は連呼していた。


(え、ええええええええええええええええええええ?)


 なにこれえ? ヤバイもん聞いちゃったんだけどぉ。


「結婚結婚。できればイケメンで経済力もあって清潔感もあって優しさもあって料理もできて、料理ができる私を褒めてくれたり家事を手伝ってくれる人」


 注文多くね? できればってレベルじゃないんだけど。


「トアリさんと恋人になれますように。できれば手を繋ぎたい。それだけでいいからお願いします」


 こっちはまさかの控えめ?


「あと城ヶ崎俊介しゅんすけという、最近トアリさんに近づいてる男を抹殺して下さい。トアリさんと恋人になって、城ヶ崎俊介の抹殺。それ以上のものは何も願いません」


 ちょっと止めてくんない。必ず願い叶うらしいからここ。


「結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚――」


「トアリさんと結ばれますように城ヶ崎俊介の抹殺トアリさんと結ばれますように城ヶ崎俊介の抹殺トアリさんと結ばれますように城ヶ崎俊介の抹殺――」


 連呼する二人の背後から、俺はソーッと離れて物陰に戻った。


「で? どうでしたか?」


「……悪い……。聞かない方が良いし、俺も言いたくない……。知りたいなら自分で確認してくれ……」


「え? ちょっと城ヶ崎くん、待ってくだ――」


 俺は静かに去った。

 神様、どうか俺を見放さないで下さい。

 そう願いながら……。

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