第75話 人外魔境メガネ決戦➂(sideM)
「あなたが規則を破るとは考えにくいけど……」
「あ、えと、その……」ボクは幽霊と岩田先生を交互に見て、「同じ部屋の人が体調不良を訴えて……」
「あら、それは大変! 今すぐ学年主任に向かわせるわね」
岩田先生はスマホを出して、通話を始めた。
「――ああ私です。――いえ、M部屋の生徒が体調不良を」
「あのあの、ワタシ、幽霊なんですけど――」
幽霊が口を挟むと、
「ちょっと静かにしなさい!」岩田先生は叫んだ。「今大事な話をしているところでしょう? 非常識な人ね!」
なんかナチュラルに幽霊叱ったんだけど。つーか岩田先生こそうるせえよ。今ので何人かの宿泊者目覚めたんじゃない?
「……ごめんなさい……」
幽霊は消え入る声で謝っていた。
もはや幽霊が可哀想なんだけど。
「――ええ、そうです。――いえいえ、それではお願いします」
岩田先生は通話を切った。
「安心してメガネくん。今主任が向かったから大丈夫よ」
「あ、はい……。それで、ですね……その……」
「あなたが言いたいことは分かってるわ」
岩田先生は幽霊の方に視線を移した。
「で? なんなのこの幽霊は?」
なんなのこの幽霊はって何?
なんで幽霊と認識した上でこんな冷静でいられるの?
いやまあボクも人のこと言えないけど。
「まさか降霊術でもしたんじゃないでしょうね?」
しませんし出来るワケないですよね。そんな質問する教師、地上であなたか鬼の手を宿した地獄先生くらいですよ多分。
「あの……さっき廊下で偶然会って……」
「あら。じゃあ野良の幽霊ってことね」
野良の幽霊って何?
「それで幽霊さん。なんの用があってメガネくんの前に現れたの?」
さっきから引っかかってるんだけどさ。
ボクの本名メガネじゃなくて
担任の先生にこそ本名で呼んでほしいんですが。
まあいいや今は幽霊の処理だ。
「あ、えとえと……特に用は無くて……」
幽霊は両手の指をモジモジ絡ませながら言った。すると岩田先生は鬼の形相になって、
「用も無いのに現れたですって? いい加減にしなさい! せめて誰かを怖がらせるとかそういう目的を持ちなさい!」
いやうるせえし言ってることメチャクチャなんですが。
「あのあの……最初は怖がらせようとしてたんですが……」
「そんなフツーの姿のアナタを見て誰が怖がるっていうの!」
やめたげてえ。もうこれ以上の死体蹴りは(相手幽霊だけど)。
「アナタなんかより夏のボーナスの少なさの方がよっぽど怖いわよ!」
なんの話ですか?
「幽霊なんだから、要求を受けなきゃ呪うとか言って怖がらせるとか、そういう設定で行きなさい!」
なんのアドバイスしてるんですか岩田先生。
つーかさっきからうるせえよ。
スゲー響き渡ってますが。
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