第65話 携わる方々、今のうちに謝っておきますね(理由は後で分かります)。


「どう? お二人さん?」


 岩田いわた先生はビニール袋を持っている。


「今のところ順調です」


 俺が言うと、岩田先生は「そう」と微笑んだ。


「これ、みんなにも配られたお弁当ね。鞘師さやしさん、どうする? ここに置いておいた方がいい?」


「そうですね」トアリは素早く言った。「入口の所に置いておいて下さい。そこで食べますので」


「分かったわ。じゃあお二人とも、時間になったらちゃんと来るのよ?」


 岩田先生は入口に弁当の入ったビニール袋を置いて、扉をしめて出ていった。


「さて、外界の汚染された空気に触れたお弁当を食しますか」


「その汚染された弁当とやらをどう食うんだよ? 昨日のうちに決まらなかっただろ、作戦」


「大丈夫です。汚染されているのは、あくまでお弁当の外ですから。中は汚くないので」


「……ふーん……」


 やはり……。トアリは実際の汚染度のことは全く考えず、『自分が汚いと思わなければ大丈夫』な、超極端で……超単純な性格。


 あの時からそう予想してはいたが……。今、それが確かなものになった。


 これはうまく言いくるめれば、修学旅行中に少しは潔癖症がマシになるかもしれない。


(うん、それも俺次第だな)


 実は俺には作戦があった。トアリに防護服を脱がせた状態で、京都を堪能させる作戦が。


 しかしそのためには一つだけ……があった。


 今の内に謝っておこう。、全力ですみません……。でもトアリの潔癖症を良くしていくために必要な犠牲なんです……。


「では城ヶ崎じょうがさきくん。まずビニール袋からお弁当を出して並べて、その蓋を開けて下さい。くれぐれも、中のモノに手を触れないようにして下さいね。でないと汚染されますから。城ヶ崎くんに(笑)」


 なにその『(笑)』。超腹立つんですけど。


「咳とかくしゃみとかお弁当にかけないでくださいよ?」


「分かってるよ、ったく」


 俺は仰せの通り、弁当を出して蓋を開けた。


「やればできるじゃないですか。じゃあ手を洗ってきて下さい」


 先に手を洗わせなかったのは、蓋を取ったために手が汚れたからだ。


「へいへい……」


 俺が手を洗って戻ると、トアリは弁当の前で手を合わせていた。


「城ヶ崎くん、早く来て下さい。一緒に食べましょう」


「あ、ああ」


 待っていてくれたのか。ホントに良い奴なのかどうなのか判断が難しいな……。


「はい、城ヶ崎くんも、この除菌された箸をどうぞ」


 俺は、トアリが持参してきた箸を受け取った。そして、


「いただきます」


 揃って昼食に入った。出入り口で。


「城ヶ崎くん」トアリは唐揚げを頬張りながら、「食事中、咳とかしたら滅します」


「わーってるよ」


 その後、特に会話することなく、もくもくと弁当を食べ終わり、洗面所を入れ替わりで使って歯を磨いて手を洗って、再び机で向かい合った。

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