第64話 スッポンポンって使う?


 そんなこんなで俺たちはG部屋に入った。玄関と部屋の間は扉で仕切られている。


「ふむ、丁度良いですね。あの扉をセントラルドグマにしましょう」


「はいはい。で? 防護服は何処で脱ぐんだ? 俺だって浄化された世界にこのまま入っちゃ駄目なんだろ? どっかで服を全部脱いで、シャワー浴びて綺麗な服に着替えて入るんだよな。でもさ、昨日も言ったけど、それだとまず、この状態で綺麗な部屋に入って綺麗な服を中に用意しなきゃいけないことになるし、対策は考えてきたのか?」


 ふふ、とトアリは笑った。


「お任せ下さい。私は部屋の中に多少は汚染区域があってもいいと判断したのです。空間除菌ジェルが設置されているから除菌してくれますし」


「その汚染区域とやらの範囲を決めて、そこで服を脱ぐってワケか?」


「ええ。そして寝る場所等はそこから離れたところにします」


「大丈夫なのか? 家じゃあんなに隔離された場所で着替えたりすんのに」


「まあ今回だけは辛抱してあげますよ。城ヶ崎じょうがさきくんも頑張ったみたいですし」


「……突拍子もなく素直になるんだな、おまえ……」


「ああもううるさいですね。さっさと汚染区域に行ってスッポンポンになってシャワー浴びて綺麗な服着て下さい」


 スッポンポンなんて言葉使う人実在したんだ。


「へいへい……仰せの通りに……」


 俺は部屋の中に入った。そして直角に右へ進んで部屋の角隅に行った。

 ここから半径二メートル以内までを汚染区域とした。

 そこで指示通りスッポンポンになって、なるべく部屋の隅を歩いて、手を洗った後にシャワーを三回浴びた。そして綺麗な寝間着に着替えてから、足を除菌シートで拭いて綺麗なスリッパを履いた。


「トアリ、終わったぞ!」


「じゃあそのまま部屋の中央で向こう向いて立っていて下さい。途中でこっち向いたら殺します」


 ドストレートだな。


「わ、分かってるっての! なるべく早くしろよ?」


 すると扉が開く音がした。間もなくガサガサギシュギシュと、防護服を脱いでいるであろう音が聞こえてきた。

 何だろう……あのトアリが後ろで服を脱いでいると考えると、ちょっとドキドキするというか……。


「城ヶ崎くん」


 不意に、トアリが声をかけてきた。


「……何だよ……」


「今、私は裸です」


「……んなこと報告しなくてもいいって……」


「どうです? 今、こちらを向いてみては?」


 遠回しに殺すって言いたいの?


「……あのな……」


「冗談です。シャワー浴びてきます」


 トテトテと可愛らしい足音が移動して、バスルームに消えていった。


「……なに考えてんだよアイツ……」


 トアリのシャワー。一時間は覚悟していたが、十五分ほどで終わったようで、


「お待たせしました」


 振り向くと、上下青ジャージ姿のトアリがそこにいた。

 頬がほんのり紅潮していて、色っぽさがあった。そんなトアリを見て、不覚にも俺の心臓は爆発しそうになっていた。


「どうしたんですか? 顔を赤くして?」


「別に……」俺はすぐさま視線を逸らした。「つーか早いな、トアリにしては……。もっとかかるって思ってたけど……」


「本格的なシャワーはもっとかけますよ。でもこの後、食事をとってから外に出なければならないじゃないですか。また汚染されるのを分かった上で本気で洗うバカじゃありませんからね、私は」


「ふ、ふーん……」


 トアリはパタパタとスリッパを鳴らして、汚染区域からうんと離れた所に部屋の机を移動させ、その前であぐらをかいた。俺も向かいに座る。


「さて城ヶ崎くん、今から昼食らしいですが、まだなんですか?」


「あー、もうすぐ来るはずだけど……」


 その時だった。部屋の出入り口が静かに開き、そこから岩田先生が半身だけ覗かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る