第63話 アナタが頑張ってくれたから
「それでなんだけど、二人きりにしたのには理由があるのよ」
「理由、ですか?」
俺の問いに「ええ」と
「まずはね、予めこの部屋を特別に除菌しておいてもらったのよ」
「除菌?」
「ええ。
「俺に習って?」俺は己を指差す。
「ええ。鞘師さんに聞いたわ。あなた教室を綺麗にするために色々やってくれたらしいじゃない。それをそのまま真似させてもらったの。旅館の人に無理言ってね」
「え?」
「鞘師さん、あれぐらい除菌された部屋なら安心して泊まれるって言ってくれたの」
「……トアリが?」
俺はトアリの顔を見た。トアリはすぐさまギシュリと顔を逸らす。
「それを聞いた以上、担任として動かないわけにはいかないでしょ? 個人的にも全員参加してほしかったし。だから先日、急いで旅館の人に頼んだの。それでめでたく綺麗な環境ができて、鞘師さんが来たのよ?」
「マジ、ですか?」
ええ、と岩田先生は微笑んだ。
「鞘師さんが来られたのは、あなたの頑張りのお陰もあるのよ? 少しは誇ってもいいんだから。ねっ? 鞘師さん?」
「べ、別に……。そんなこと……」
ふふっと岩田先生は笑う。
「ゴメンね鞘師さん。絶対に言わないって約束だったけど、城ヶ崎くんの頑張りを知って、担任として言うべきだと判断させてもらったわ。城ヶ崎くんのお陰で、鞘師さんが課外授業に行く決意を固めたこと」
「そ、それは……後で言うつもりでしたし……」
「あらそう?」
「はい……。でも城ヶ崎くんと二人きりの部屋というのは初めて知りました……」
「ああ、そこよね。クラスの中で唯一、人に一番近いぐらい除染されたGの彼ならオッケーかと思ったのだけれども」
岩田先生? サラッと暴言吐いてますけど違いますよね? それトアリの言葉をそのまま言っただけですよね?
「大丈夫。流石に寝るときは、城ヶ崎くんには他の所に行ってもらうから。ああでもいくらなんでも男子と二人の部屋は嫌だったかしら?」
「いえ、大丈夫です……」
「ホントに?」
「はい、G用スプレー持ってきてますし」
結局それか。
「城ヶ崎くん」岩田先生は耳打ちしてきた。「今の、照れ隠しだと思うわ」
「……はあ……そうですかね……」
「あなたも鈍いわねえ~」
ため息混じりにそう言うと、岩田先生は「じゃあね」と立ち去っていった。
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