第59話 元グリーンベレーだけに(sideM)

「あ、あの~」ボクは丸坊主と金髪オールバックをチラッと見てから、教頭に言う。「どうかしましたか?」


「実はですね。この新幹線に『本物の』極悪ごくあく非道ひどう六神獣ろくしんじゅう及び魔王まおうが居るという情報がありまして」


 確かに目と鼻の先に居ますが何する気ですか?

 もしかしてまた銃撃戦でもする気?


「え、ええっと、居たとしたら……どうするおつもりで?」


 ボクは金髪オールバックと丸坊主をチラチラ見ながら教頭に言った。


「なあに。ただ血祭りにあげようかと思いまして」


 サラッと恐いこと言わないでくれますか?


『ガクガクガクガクガク……』金髪オールバックは全身を震わせる。


 ほらああああ。本物の極悪非道六神獣及び魔王の金髪オールバックの人が震えだしてるし――、


『タッタッタッタッタ……』


 と、丸坊主は金髪オールバックを置いて颯爽と前の車両に逃げて行ったのだった。


(え、えええええええええええええええええ?)


 意外と俊足で丸坊主の人が去っていったんだけど。

 綺麗に仲間見捨てたんだけど。


「我が生徒に危害を及ぼしかねませんからね。見つけ次第、元グリーンベレーでもあるワタシがボコボコにしておこうかと」


 ヤバいヤバいヤバい。

 このままじゃ血祭りが始まるって。

 あの人フジヨシくんを叩いたことしかないから。

 良い人だから。めっちゃ良い人だから。


「ムッ! この殺気は!」


 と、教頭は震える金髪オールバックの方に鋭く視線を移した。

 ヤバいよこれ、教頭もしかして気づいた?


「メガネくん! 前の方角から『奴』の気配がしますよ!」


「え、あの、奴って何ですか?」


 ボクは恐る恐る聞いた。


「もちろん本物の極悪非道六神獣及び魔王の気配、ですよ! 向こうの方角に居ると私の中のコスモが言っています!」


 コスモってなんですか?


「うーん、しかし今日はコスモのレーダーが不安定だ……。いつもなら誰が何処にいるのかを座標で正確に教えてくれるのですが」


 ごめんなさいそのまま壊れていてくださいコスモさん。


「む! この方角……もしかしたら北海道に居るのかもしれません!」


 コスモレーダーぶっ壊れすぎでしょ。

 電波悪い時のGPS並みに使いもんになってないよ。

 いやまあいいけどね。

 もうそのまま北海道に行って蟹でも食べていてください。


「おのれ極悪非道六神獣及び魔王! ワタシのコスモレーダーを狂わせるとは、ふざけた真似をををををを!」


 それはホントに極悪非道六神獣及び魔王のせいなんですか?

 最初からポンコツなだけじゃねコスモレーダー。


「失礼! メガネくん、ワタシはこれからグリーン車でくつろいできます!」


 このタイミングで? もしかして探すのめんどくなりました?


「覚悟していてください極悪非道六神獣及び魔王……。いつか色んな角度からワタシの鉄拳をお見舞いしてあげます……」


 言いつつ、教頭はグリーン車の方に消えていった。

 一方の、本物の極悪非道六神獣及び魔王はというと、もう膝どころか髪の毛の先まで震わせるほど怯えていたのだった。

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