第57話 チーズ魔王(sideM)

(うーん、城ヶ崎じょうがさきくん、何処まで行ったのかな……)


 二つ先の車両を進んで、新幹線のドア付近に差し掛かった時……そこでダベる男子二人組が居た。

 二人は知らない学校の学ラン姿。ボクと同学年かな?

 片方は丸坊主で、片方は金髪オールバック。とても恐そうな人たちを見て、ボクは反射的に物陰に隠れた。


「この新幹線にきよキラの奴らが居るらしいッスよ!」


 と丸坊主の男子。眉を剃り上げていて恐い。


「ケッ、気に食わねえ……」金髪オールバックは言った。「勉強できるからって良い気になってんだろーな」


「どうしやす?」と丸坊主。


「三人ぐれえ軽くシバく」


 金髪オールバックが言うと、「流石ッスね!」と丸坊主がニヤリと笑った。

 恐い恐い恐い恐い。え、もしかしてかなりヤバい? 先生に報告した方が良いかな。


「最初は……そうだな……」金髪オールバックは言う。「牛乳瓶の底のように分厚いメガネかけた『早』から始まって『気』で終わる名前のやつをシバくか」


 何でそんなピンポイントにボクが標的になってるんですか?(※ボクはメガネではなく早乙女さおとめ勇気ゆうきっていう名前があります)。


「そんなの居ますかね?」と丸坊主。


「名前はどうあれ、勉強できる奴ぁ大体そういうナリしてんだろ」


 古いよ偏見の仕方が。大正時代から来たんですかアナタたちは。いやまあ該当するボクが言うのもなんだけども。


「くっくっく……」金髪オールバックは不気味に笑いながら、「地元じゃ警察にも極悪ごくあく非道ひどう六神獣ろくしんじゅう及び魔王まおうと呼ばれてる俺様の恐ろしさを、清キラに……いや、全国に刻んでやるぜ」


「いよっ、流石ッス!」


 ハッハッハッハ! と二人は笑いあった。


(え、えええええええええええええええええええ?)


 極悪非道六神獣及び魔王おおおおおおおおおおおおお?

 実在したの?

 そういや新幹線乗る前、係員さんが実在するような感じで城ヶ崎くんに詰め寄ってたけど。

 え、つまりそういうこと?


「くっくっくっ」極悪非道六神獣及び魔王と名乗った金髪オールバックは笑う。「幼稚園の時に『フジヨシくん』の頭を思わず叩いて泣かせちゃったとき以来だぜ、人をシバくのはよぉ」


 それワリと誰でもある体験じゃね? つーかフジヨシくんて誰?


「その時、幼稚園のセンコーに怒られても泣くの我慢した俺だ。自分の悪さに惚れ惚れするぜ」


 それもワリとよくある体験。なんか情けないよ昔のワル自慢が。


「その日から、俺は極悪非道六神獣及び魔王と呼ばれ、名前が独り歩きして今に至ったってワケよ」


 そんなしょーもない理由で大層な二つ名を得たの? てかなんでさっきから説明口調? もしかして物語にかなり協力的なアレ?


「因みにフジヨシくんとは中学まで一緒だったなぁ。くくっ……アイツが休んだ日はその日に配られたプリントを奴の家までカチコンで届けに行ったっけ……」


 めっちゃ良い人じゃん。


「フジヨシくんと違う高校行くこと知った時、お互い泣いたっけな」


 めっちゃ良い人じゃん。


「フジヨシくん……結局どこの高校行ったか教えてくれなかったなぁ……。勉強できない俺を気遣って、のことらしいけど……。まあ元気でやってるなら良いかな……」


 めっちゃ良い人じゃん。めっちゃ良い人じゃん。


「いよっ! 流石ッス!」


 丸坊主が言うと、「よせよ」と金髪オールバックが満更でもない様子。


「ふう……ちょっと震えきたぜ……」


 言うと、金髪オールバックは右手をガタガタ震わせたのだった。


「お、お、おおおおおおおおお落ち着けオレ……。生涯喧嘩とかしたことないけどなんか奇跡的に強くなってるはずだメガネかけた奴なんかに負けるはずないんだだだだだ」


 早口で言うと、金髪オールバックは震える右手を左手で抑えた。


(え、ええええええええええええええええええええ?)


 だ、大丈夫ですか?

 逆に心配なんですけど。

 そんな無理にシバく必要ないですよ?


「流石ッス!」丸坊主は言う。「武者震いッスね!」


 いやただ震えてるだけだよ。人の話は聞こうね。


「よよよよよよし、じゃあ行くぞ!」


 と、金髪オールバックがボクたちの車両に向かおうとした時だった。


「後ろの車両も確認しとくか……」


 と言いつつ、清キラの制服を身にまとった男子がこちらにやってきた。

 城ヶ崎くんだった。

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