第56話 心境変化(sideM)


「にしても城ヶ崎じょうがさきくん、余計なことをしに行ったようですね」


 鞘師さやしさんはやれやれといった雰囲気で言った。防護服の中では呆れた表情をしているに違いない。


「メガネくん……あっ、間違えた、早乙女さおとめくん」


 メガネです。

 あ、間違えた、早乙女で合ってた。

 あまりにもメガネって言われすぎて自分を見失ってたよ。

 だって一番ボクのことメガネって呼びそうな人に限って本名で呼ぶんだもん。


「まずお礼をします」


「お礼?」


「はい。私と席を交代してくれたじゃないですか。かなり強引になってすみませんね」


 メッチャ優しいんだけどおおおおおおおおおおおおお。

 なんか涙がメガネを突き抜けそう……。


「あ、ううん、気にしないでよ鞘師さん」


「そうですか。ずっと気になっていたので。お礼を言える機会が出来て良かったです」


 良い人だ……。


「そういえば早乙女くん、私とお話ししたいと言っていましたが?」


「あ、うん……。ていうかその……今日は何でそんな赤い防護服を着てるの?」


 ほう、と鞘師さんは声を出した。


「その変化に気づくとは、流石ですね早乙女くん」


 いや誰でも気づくと思うけど。そのピッカピカな赤い防護服見て気づかないなんて人居ないと思うけど。


「この赤い防護服には特殊な効果がありまして」


「と、特殊な効果?」


「ええ。通常の三倍、素早く動けるだけでなく、一万二千枚の特殊装甲を備えています。それだけでなく心の壁(ATエーティーフィールド)を展開できます」


 ……彼女は一体なにを言っているんだろう。


「と、とにかく凄いってことかな?」


「ええ。まあ言ってしまうと、いつもの防護服を赤くしただけなんですが」


 じゃあ色が違うだけだよね? え、さっきの説明は何だったの?


「あの、ところで鞘師さんは、何で他の人を引き離すようなことを言うのかなー……なんて……」


 ボクは慎重に聞いていた。


「色々あるのですよ。でも最近できた友達が、もしかしたら私のそういったところを治してくれるのかもしれませんね」


「へ、へえ……」


 最近できた友達、か。

 誰のことだろう……。

 とにかくその友達のお陰で、鞘師さんは変わりつつあるのだろうか。

 そういえば今のところボクに対して毒づくことしてないし……。

 対応も優しかったし……。

 その友達のお陰なのかな?

 モトモトそういう人だった可能性も?


「心境が変化してるってことですよ、私も。他に聞きたいことありますか?」


「あ、ううん……。ありがとう、話してくれて……」


「そんなのクラスメートだから当然じゃないですか。お話ししただけで礼を言われる筋合いはありません」


 ……なんか思ったよりホントにマトモな人だ……。

 元からなのか、心境変化のお陰なのか……。


「ところで早乙女くん。一つお願い事があるのですが」


「あ、うん。何?」


「城ヶ崎くんを連れ戻してくれませんか?」


「城ヶ崎くんを? あ、そういえばさっき恐い顔してどっか行ったね」


「はい。探して連れ戻してください。あれ以上、汚染度が高くなってしまわれては困ります」


「えっと、とにかく城ヶ崎くんを連れ戻せば良いんだね?」


「はい。お願いします」


 ボクは立ち上がり、城ヶ崎くんが消えていった前の車両に向かった。

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