第55話 鞘師さんと話そう!(sideM)


 どうも、メガネです。

 あ、もう説明は必要ないですよね。

 はい、メガネです。

 本名は早乙女さおとめ勇気ゆうきですが覚える必要はありません。

 ボクはこれから鞘師さやしさんと話してみようかなと、新幹線の席を立ったところです。

 失礼な発言をして皆を突き放す鞘師さんだけど……。

 何か理由があってそうしてるんだと思います。


(うーん、どうやって話しかけようかな……)


 いつもは白い防護服を着ている鞘師さんだけど……。今日は何故か眩しいほど真っ赤な防護服を着ている。そんな鞘師さんの隣には、城ヶ崎じょうがさきくんが座っている。

 城ヶ崎くんは、なんだか凄く恐い顔をしながら、視線だけ動かして辺りをキョロキョロしている。何かを警戒するように。


「ちょっと前の車両確認してくる……」


 と、城ヶ崎くんは席を立って、前の車両へ歩いていった。


(どうしたんだろう……)


 何か用事でもあるのかな……。

 ともあれ、城ヶ崎くんの席が空いたことで、鞘師さんと話す機会がやってきた。


「あ、あのー、ちょっとここ座って良い?」


 ボクは恐る恐る鞘師さんに言った。鞘師さんは微動だにせず、新幹線の窓から外の景色を眺め続ける。


「あの~、鞘師さん?」


 もう一度呼びかけると、鞘師さんはギシュリと防護服を鳴らして顔をこちらに向けた。

 そして、


「汚染度の高いメガネが来た……」


 ボソッと呟いたのだった。


(え、ええええええええええええええええ?)


 初手から失礼な発言浴びせられたんだけど。早くも挫けそうなんですけど。


「ああ失礼……。今のは冗談です」鞘師さんは言った。「メガネ掛け機の間違いでした」


 余計失礼なことになってるけど?

 防護服の視界が悪くてメガネしか見えてないだけだよね?

 そーだよね?


「何か用ですか?」鞘師さんは素っ気なく言う。


「あ、えっと、ちょっと鞘師さんと話したいなーって思って」


「ほう。あぁ、あなたは早乙女さおとめ勇気ゆうきくんじゃないですか。なんだビックリしたメガネ掛け機が命を宿して歩いてきたのかと思いましたよ。防護服の視界が悪くて見間違えました」


 あ、あれえええええええええええええええ?

 思ったよりマトモなんだけど。

 ボクのフルネーム認知してるんだけど。

 ホントに防護服の視界が悪くて見えてないだけだったよ。


「いつまでそこで突っ立ってるんですか? 新幹線揺れるから座らないと危ないですよ」


 しかも優しいんだけど。


「えっと、じゃあ失礼します」


 ボクは鞘師さんの隣に座った。

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