第52話 事件性はありません


「お姉ちゃーん! 忘れ物ー!」


 と、ここでセーラー服姿のなるみちゃんが、手提げ鞄を手にこちらに走ってきた。


「おっ、なるみちゃん、おはよう」


「おはよう、城ヶ崎じょうがさきさん」


 笑顔で挨拶すると、なるみちゃんは手提げ鞄から何かを取り出した。


「はいお姉ちゃん。忘れ物のケータイ」


「あっ、すっかり忘れてた。ありがと、なるみ」


 トアリは受け取った。そのケータイはガラケー。折り畳み式で、殺人現場の証拠品のように、小さなビニールパックの中に開いた状態で入っていたのであった。


(え、えええええええええええ?)


 なにあれ気持ち悪うぅ。事件性を感じるんだけど気のせいですか?


「もーお姉ちゃん、ケータイ忘れるなんてオッチョコチョイなんだから」


「ごめんごめん」トアリはケータイをリュックサックにしまった。「フルビニケータイ忘れちゃ駄目だよねー」


 フルビニケータイってなに? もしかしてあのまま使うつもりなの?


「頑張ってね。城ヶ崎さんも、お姉ちゃんをヨロシク」


「あ、ああ。任せとけ」


「うん。じゃあね城ヶ崎さん」


 手を振り、なるみちゃんは走りだした。


「城ヶ崎くん、頑張って下さいね」トアリは言った「では私も」


「待たんかい」


 なるみちゃんに続こうとしたトアリの肩を、俺は掴み、静止した。


「なにさり気なく帰ろうとしてんの? 帰れると思った? 帰らせると思った?」


「はあもう、しょうがないですねー。付き合ってあげますよ、まったく……」


 何度も言うようだけどしょうがないのはオマエだからな赤い彗星。


「はいはい皆さん! クラスごとに並んで下さい!」


 加藤かとうがメガホンを使って指示を出した。俺とトアリは自分のクラスメートたちを男女一列ずつに並べ、その先頭に立った。


「おいおい」


「なにあれ?」


鞘師さやしトアリだよな?」


「赤くね?」


「やべえよ」


「あの赤い禍々しさ……。コンビの極悪ごくあく非道ひどう六神獣ろくしんじゅう及び魔王まおうの城ヶ崎俊介しゅんすけに合っててて恐えええ……」


「てか何だあの赤?」


「あの赤はもうすぐ学校を支配する狼煙らしいぜ」


「えー?」


「マジかよ?」


「噂では極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎俊介が、ついに教員にも手を出したとか」


「げえ」


「マジ?」


「逆らわない方が良さそう――」


 等と、他のクラスの生徒は勿論、俺のクラスメートたちもこちらに注目してヒソヒソしている。


(えええええええええ?)


 噂が更にこじれて凄いことになってんだけど。

 学校を牛耳ってる魔王になってんだけど。


「いとをかし」


 おまえはホントお気楽だな。

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