第51話 深紅 ろ 防護


 視界にもの凄く赤いモノが入った。

 あれは何だと目を凝らしてみると、間違い無く『奴』だった。

 全身を防護服で覆った鞘師さやしトアリだった。

 しかしいつもと違って、その防護服は白ではなく、眩しいほどの深紅で染め上げられていたのだった。その深紅のフルアーマー状態のトアリは、両手をダラリと落とした低い体勢で、こちらにゆっくりと歩いてくる。


(え、えええええええええ?)


 ちょっとなにあれ? ちょっとなにあれ?


(トアリ……だよな間違い無く……)


 赤い防護服を着たトアリは、ゆーっくりと徐々に近づいて、ついに俺の所まで辿り着いた。丁度、集合時間の五分前に。


「お、おまえ……。トアリで合ってる、よな?」


 ギシュリと音を立てて、頷いた。そしてだらけた体勢をギシュリと戻し、俺とちゃんと向き合った。


「――い」


 トアリは言った。声が小さすぎて聞き取れなかった。

 え? と俺が聞き返すと、


「……今日はもう帰りたい」


 赤い防護服の中から、トアリは死にそうな声でそう呟いたのだった。


(え、えええええええええええ?)


 いやまだ電車に乗ってすらないんだけど。どんだけガラスのメンタルなんだよ。


「……つーかトアリ……」


 俺は、眩しいほど深紅に染め上げられたトアリの防護服を一往復見直した。背中に大きなリュックサックを背負っている。


「何だよその防護服の色は?」


「……ああこれ? あか彗星すいせい専用カラーです」


 どういうこと?


「では私は赤い彗星の如く家に去るので」トアリはクルリと反転した。「ご機嫌よう」


「待たんかい」


 俺はトアリの肩を掴んでこちらに反転させた。トアリは防護服の中で舌打ち。


「なにさり気なく帰還しようとしてんの? つーか赤い彗星専用カラーって何だ。見ただけで目がチカチカすんだけど、すんごい目障りなんだけど」


「あっ、すみませんー。常に暗い物陰の間をカサカサ移動して生きてるゴキブリカラーの人には眩しすぎましたよねー」


 ゴキブリカラーって何だ。普通の学ランカラー(黒)だわボケ。ホントいついかなる場合であっても通常運転を貫き通すなコイツは。

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