第53話 あの


「さあみんな、静かにして。出席取るわよ?」


 と、岩田いわた先生が出席名簿を手に、クラスの列の前に来た。そして速やかに出席確認した。


「うん、全員来ているわね。じゃあ早速、新幹線に乗るからついてきなさい。クラス委員長の城ヶ崎じょうがさきくんと鞘師さやしさんに続いてね」


 俺はケッコー期待していた。

 きよキラ高生だ! と指さされるのを。

 でも新幹線までの道のりで、エリートだのとゆびさされることはなかった。

 何故なら先頭の、俺の隣の……赤い防護服を着たトアリが一際ひときわ目立ったから。


「えええ?」


「何だアレ?」


「何かのコスプレ?」


「え、でも清キラの人たち……だよね?」


「どういうこと?」


「知らねーけど撮っとこうぜ」


 トアリが着る防護服の珍しさに、スマホで写真を撮ろうとしていた者が多数居たが、


「写真は撮らないで下さい! プライバシーの侵害で訴えますよ!」


 と、加藤かとうがメガホンで注意してくれた。その力強さに押されて、周りの人たちはすぐにスマホをしまい始めた。


(なんだ、結構良い奴じゃん、加藤って)


 俺がそう思ったのも束の間。


「訴えられるだけならまだしも、極悪ごくあく非道ひどう六神獣ろくしんじゅう及び魔王まおうの城ヶ崎俊介しゅんすけに何されるか分かったもんじゃありませんよ!」


 おい止めろマジで。


「ちょっとキミいいぃ!」


 と、駅の係員がクラスの列にかけつけてきた。

 無理も無い、初見で赤い防護服姿は怪しまれても。

 まあ説明すれば分かってくれ――、


「極悪非道六神獣及び魔王ってのはホントかね!」


 そっちいいいいいいいいいい?


「ええ! この人がその極悪非道六神獣及び魔王の城ヶ崎俊介です!」


 加藤が俺を力強く指差すと、係員がこちらに向かってきた。


「キミ! あの極悪非道六神獣及び魔王なのかね?」


 あの極悪非道六神獣及び魔王なのかねってどういうこと?

 実在すんの?


「ち、違いますよ!」俺は必死に叫ぶ。


「そうですよ」


 と、トアリが言ってくれた。


「学校の通り名みたいなもので、彼は極悪非道六神獣及び魔王ではありません。極悪非道六神獣及び魔王であることは揺るがぬ事実ですが、極悪非道六神獣及び魔王ってことじゃないってことにしておいてください」


 ちょっとそれ結局肯定してるってことにならね?


「そうか、ならば良し」


 係員納得したぁ。


「失礼した」


 係員速やかに帰ったぁ。


「さっ、みんな」岩田先生は言った。「新幹線に乗るわよ」


 そして何事も無かったかのようにいつの間にか新幹線の改札口まで来てたぁ。


「ちょっと! 極悪非道六神獣及び魔王は最後に通って下さい!」


 更に生徒会副会長お墨付きで極悪非道六神獣及び魔王継続かいいいい。


「いとをかし」


 最後に深紅のダメ押し来たぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る