第44話 はじめまして


「誰の部屋なんだろうな……」


 ベッド、折り畳み式の机、本棚、テレビ等、必要最低限のものはあるから、普段誰かが使っている部屋であることは分かる。

 何だろう、女子独特の、良い匂いが染み渡っている。


「なるみちゃんの部屋、かな……」


 そう思ったのは、トアリの部屋とは思いにくい要素があったからだ。

 部屋の清潔度。普通の部屋のそれと同レベル。テレビの上や机のパソコンにうっすらと埃がかかっている。

 漫画本やゲーム機、ゲームソフト、女物の服までも床に散らばっているし、あの超潔癖症女子が暮している部屋とは到底思えない。


「や、やっぱりなるみちゃんの部屋、だよな……」


 そう考えると、ちょっと緊張する。部屋でどう待機すればいいのだろう。あんなに可愛い女子の部屋で適当に座るのは、何だかイケナイことをする気がしてならないし……。あまり部屋をジロジロ見るのも気が引ける……。


「まずいな……やれることがない……」


 スマホは預けてあるし、勝手にテレビを観るのも悪い気がするし……。

 ていうか女子の部屋に来たの初めてだから、何をしていればいいのか分からない……。


「うう……」


 なるべく視界をぼんやりとさせて、俺は部屋で立っていた。しばらくすると、扉が静かに開かれた。

 入ってきたのは、全く面識の無いショートカットの女子だった。


 一言に、メチャクチャ可愛かった。

 アイドルのように、周りの空間が煌めいて見えるほどだった。

 千年に一人どころじゃない。

 万年に一人と言っても過言ではなかった。


 女子はスラッとしていて、スタイルも良かった。

 ノースリーブノーブラ姿で、俺は目のやりどころに困っていた。

 そんな俺をよそに、女子は何も言わずに部屋の扉を閉めて、無言で机の前にあぐらをかいた。女子のハーフパンツが内に引っ張られて、綺麗な太ももが露わになる。


「……えっ……と……」


 俺が視線をキョロキョロさせていると、女子は「はあ……」とため息を吐いた。


「なに不審者のように立ってるんですか?」


 聞き覚えのある声だった。とてもクリアになった、聞き覚えのある女子の声……。


 まさか……。


「いいからその辺にテキトーに座って下さいよ。気が散るってか、目が汚染されます」


 この声、失礼な言動。


「いつまでも飛翔するジーみたいに立ってないで、座って下さいよ、城ヶ崎じょうがさきくん」


 人をG呼ばわりし、俺のことを『くん』付けで呼ぶ女子って……。


「にしても、課外授業、明日かぁ……。鬱&鬱&ゴキブリだなあ……」


 課外授業を鬱と言う女子って……。


「え、えええええええええええええええええええええええええええええ?」


 俺は叫んだ。


「えええええええええええええええええええええええ? てか、ええええええええええええええええええええええええ?」


 女子の正体を知り、あり得ないほど叫んだ。

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